出資比率は絶対ではない(出光興産事件)
1 上場会社の監査機関
「のう、後藤!上場会社でも結構不祥事があるようだが、上場会社の監査機関はどうなってるんだい。」
「会社法で定められている監査機関は、古くからある監査役会、平成14年の商法改正によって制度化された委員会設置会社(平成26年の会社法改正の時から指名委員会等設置会社と改称)における監査委員会、それと平成26年の会社法改正によって制度化された監査等委員会の三つがあるが、上場会社はそのうちいずれか一つを選択しなければならないんだ。なお、表1の割合は、平成29年8月28日の日経新聞に書かれた、東証一部上場会社が選択した数の割合だよ。」
(表1)
監査機関制度化した時期割合
監査役会昔からあるもの 75%
監査委員会平成14年改正法から 2%
監査等委員会平成26年改正法から 22%
2 監査委員会(指名委員会等設置会社にある監査機関)が少ない理由
「表1を見ると、監査委員会の数の割合が2%と少ないが、理由は何だい。」
「実は、この監査委員会というのはな、他にも指名委員会と報酬委員会がある委員会設置会社(現在は、指名委員会等設置会社に改称)における監査委員会のことで、この会社組織は評判が悪いからなんだ。」
「なぜ、指名委員会等設置会社の評判が悪いんだい。」
「表2のAとBを比較して見てくれ。
(表2)
A
14年改正法による委員会設置会社 (現在は指名委員会等設置会社に改称)
取締役会の中に、下記3委員会あり。
・指名委員会(株主総会で選任される取締役選任議案を決める委員会)
・報酬委員会(取締役の報酬を決める委員会)、
・監査委員会(監査機関)
いずれの委員会も、委員の過半数が社外取締役からなっている。
B
26年改正法による監査等委員会設置会社
取締役会の中に、下記1委員会あり。
・監査等委員会(監査機関)
監査等委員会は、委員の過半数が社外取締役からなっている。
「これを見て分かるだろうが、指名委員会等設置会社は、社外取締役が各委員会の過半数を占めるだろう。その社外取締役が、事実上、会社の取締役を決め、取締役の報酬額を決めるのだから、そりゃ、人気がよいはずはないわなあ。平成26年に制度化された監査等委員会設置会社が、短期間に22%にもなったのと雲泥の差があるだろう。監査等委員会設置会社には、監査等委員会があるだけで、指名委員会も報酬委員会もないからなあ。」
3 監査等委員会(監査等委員会設置会社の監査機関)が増えた原因
「のう、後藤!監査等委員会が、制度化されて短期間にうちに22%にもなったということは、監査役会を廃止してなったということか?」
「表1の数字を見る限り、そうだと思うよ。」
4 監査役会と監査等委員会の違い
「後藤よ。監査役会と監査等委員会はどう違うんだい。」
「表3のとおりだよ。」
(表3)
A
監査役会
・監査役会は、取締役会からは独立した、取締役の業務及び会計を監査する機関。
・監査役は3名以上必要で、半数以上は社外監査役でなければならない。
B
監査等委員会
・監査等委員会は、取締役会の下に設置された、取締役がする監査機関。
・監査等委員は3名以上必要で、その過半数は社外取締役でなければならない
5 監査等委員会に移行する理由
「後藤!上場会社が、監査機関を、監査役会から監査等委員会に移行させようとする理由はなんだい。」
「大きな理由は、社外役員数の増加を抑えるためだ。というのはな、表3に書いたように監査役会を置いておくと、最低2名の社外監査役が要るだろう。その上に、表4のように、社外取締役のいない上場会社では、社外取締役を最低2名を置く必要に迫られたんだ(これにより、監査役会設置会社は、社外監査役2名以上、社外取締役2名以上、合計社外役員は4名以上が必要になる。)。そこでだ。監査役会を廃止し、監査等委員会を置くと、社外役員は、社外監査役が2から0になり、社外取締役が0から2になり、結局2名のままでよいことになるだろう。これが、監査役会が廃止されて監査等委員会を置く会社が急激に増えた理由だよ。」
(表4)
平成27年3月、金融庁と東京証券取引所は、上場企業に対し、コーポレートガバナンス・コード(行動規範を含む企業統治の指針)を示し、①監査役会を設置した上場会社は、社外取締役を2人以上選任すること、②もし社外取締役を選任しない場合は、選任しない相当な理由を明らかにすることを勧告
→ これにより、上場会社は事実上2名以上の社外取締役を置く義務が生じた。
「後藤よ。監査等委員会制度を導入した時期と、前述の金融庁が上場企業に対し社外取締役を2人以上選任することを求めた時期が接着していることを考えると、監査等委員会制度の導入は、上場会社に社外取締役を導入しやすくした政策的なものなのかい。」
「そうだと思うよ。」
6 監査役会と監査等委員会の違い
「後藤よ。監査役会における監査と、監査等委員会における監査とではどういう違いがあるんだい。」
「両者の違いは、表5のとおりだ。」
(表5)
A
監査役会
・監査役会は、取締役会からは独立機関である。したがって、監査役は取締役とは兼任できない。
・監査の内容は、違法性監査のみで、妥当性の監査はできない。
・監査の時期は、取締役がした業務執行の後、すなわち事後的な監査になる。
・監査役会とは別に、個々の監査役にも監査権限がある(独任制)
・監査役の任期は4年間で、身分保障期間が長い。
・監査役のうち少なくとも1名は常勤の監査役でなければならない。
B
監査等委員会
・監査等委員会は、取締役会の中に置かれ、監査等委員は、同時に取締役でもある。
・監査の内容は、違法性監査と妥当性監査をする。
監査の時期は、事前、事後いつでもなしうる。
・監査は、監査等委員会のみがし、個々の監査等委員が独立した監査意見を述べることはできない(独任制ではない)。
・監査等委員の取締役任期は2年間
・監査等委員は、常勤であることは必要ない
7 監査力の強弱
「で、後藤よ!お前は、監査役会と監査等委員会を比較して、監査力という点ではいずれが高いと思うかのう?」
「俺は、監査役会の方に軍配を上げたいね。理由は表6とおりだよ。」
(表6)
1 監査役は、監査等委員に比べ、身分保障期間が長い(4年と2年)ので、再任を期待して取締役会に甘い監査をするというおそれが少ないこと。
2 監査等委員は、独自に監査意見を述べることができないが、監査役は、独任性であるから、単独で監査権限を行使し、意見を述べることができること。
3 監査等委員は、常勤でなくともよいのに、監査役は、最低1名は常勤でなければならない点で、監査役会の方が深度のある監査が期待できること。
4 監査役は、取締役とは独立した立場なので客観的な監査ができるが、監査等委員は取締役であるので、自分が参加している取締役会で違法な決議があった場合、公正な監査ができるのかという問題があること。
「のう、後藤!これまで監査役会を置いた会社と、監査(等)委員会を置いた会社では、いずれが多く不祥事を起こしているかが分かるかい。」
「それは分からないよ。我が国では東芝、アメリカでは、エンロンやワールドコムというような大企業が、監査委員会を置いた会社であって、大規模な会計不祥事を起こしているが、会計不祥事は、監査役会設置会社にもあるんだからな。」