公正証書遺言の数
次の遺言書は,遺言書実務で書かれた遺言書の一つです。
遺言書
遺言書
私,凸山太郎は,次のとおり遺言する。
1 私は,○○株式会社の発行済み株式のすべてを長男凸山一郎に,また,その余の財産を妻の凸山花子に相続させる。
2 もし長男が相続を放棄した場合は、私の有する○○株式会社の株式は、3及び4項に定めたことを遺言執行者がすることを条件又は遺言執行者の負担として、遺言執行者に遺贈する。
3 遺言執行者は、この遺言書の効果が発生した後は、可及的速やかに、○○株式会社を解散して清算手続に入ること。もし、清算の過程で、同社が債務超過になったと判断するときは、破産手続をとること。
4 ○○株式会社の清算により,株主へ残余財産の分配が可能になったときは,遺言執行者は株主としてそれを受け、それを妻に譲渡すること。ただし、妻も相続放棄をした場合は、遺言執行者はそれを換価したうえで、換価金を遺言執行者が選定する社会福祉事業団体に寄付すること
5 弁護士法人○□法律事務所を遺言執行者に指定する。
6 以下略
【この遺言書の狙い】
この遺言書は,後継者のいない中小企業(株式会社)のオーナー社長が,自分自身生きている間は経営に不安はないが,万一亡くなった後は,相続人の力量では会社経営はできないだろうから,会社を整理せざるを得ないことになるが,その方法として、企業継続価値(ゴーイングコンサーンバリュー)や帳簿上の資産価額で、事業の譲渡ができるのなら、相続人はかなりの資産を手に入れることはできるが、事業譲渡ができないで、会社を解散して清算することにすれば、会社の資産は処分価格でしか評価できないので、そのときは債務超過になってしまうおそれがある。相続人としては、そうなる可能性のある自社株など相続したくない、と言っている。しかしながら、相続人がいないところで、会社を廃業すれば、従業員や取引先に多大な迷惑をかけることになるから、そうなる場合は、破産手続をとってでも、法的に整理し、できるだけ関係者に迷惑をかけない方法で清算したい。その手続を弁護士法人に依頼するので、そのための必要な遺言書を書きたい、ということから考えられ作成されたものです。
この遺言書からも分かることですが,遺言者は,後事を遺言執行者に託したくて遺言書を書くことも多いのです。
ですから,遺言執行者は,遺言者の遺志の実現こそ,大切な仕事になるのです。