遺留分法理③ 遺贈(ここでは相続分の指定)+贈与により侵害された遺留分額の計算法理
「 私は、不動産の全部を、長男凸山一郎に相続させる。 」
というような、特定の遺産(例では「不動産の全部」)を、特定の相続人(例では「凸山一郎」)に、「相続させる」と書いた遺言書、の法的性格については、下記の判例が出るまでは、これを相続分の指定、遺産分割方法の指定又は遺贈のいずれとみるべきかにつき、諸説紛々帰一するところを知らず、という状態であったのですが、下記の判例が出、その法的性格は、「遺産分割方法の指定」であり、その効果は、被相続人の死亡と同時に直ちに(物権的に、また、遺言執行者が介在することなく、)受遺相続人に移転するという、判例法理が確立しました。
最高裁二小法廷平成3年4月19日判決
・・・遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合,・・・遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り,・・・正に同条(注:民法908条)にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり,他の共同相続人も右の遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議,さらには審判もなし得ないのであるから,このような遺言にあっては,遺言者の意思に合致するものとして,遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。・・・
以後、「相続させる」遺言法理の世界では、この最高裁・香川判決( 裁判長の名が冠せられるほどに有名な判決になりました。 )が、下級審の裁判所判決のみならず、最高裁の判決をも拘束する、通用性を確立したのです。
つまり、この判決で明らかにされた法理は、暗夜の灯台とも、一つの金字塔とも、遺言法理の道標とも、いってよい価値、を有することになったのです。
次回以降に紹介する「相続させる」遺言判例は、香川判決を礎として、その上に築かれていっております。