新しい契約書案 改正民法に合わせて①「瑕疵」という言葉は使わない
1最高裁判所平成17年12月16日判決
同判決は,
①居宅の賃貸借契約における通常の使用に伴い生ずる損耗については,賃借人に原状回復義務はない。
➁賃借人に原状回復義務を負わせるためには,賃借人が補修費用を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要である。
旨判示しています。
2 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
同ガイドラインは,上記判例を敷衍して,賃借人に特別の負担を課す特約の要件を説明しています(7頁,38頁)。そこでは概ね次のような要件があげられています。
① 特約の必要性があり,かつ,暴利的でないなどの客観的,合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
3 要するに
要は,賃借人には,特約を結ばない場合は,原状回復義務(修繕義務)はないことを,正しく認識してもらった(➁の要件)上で,特定された部分(別紙一覧表にして具体的に書かれることになります。)については,わざわざ修繕義務を負う約束をした(⑶の要件)ときは,特約の必要性があり,かつ,暴利的でないなどの客観的,合理的理由が存在すれば(①の要件),その義務が発生するということになります。
4 これは契約書の問題
同ガイドラインにも書かれていますが,原状回復の問題は、賃貸借契約の「出口」すなわち退去時の問題と捉えられがちですが、これを「入口」すなわち入居時の問題と捉え、“入退去時における損耗等の有無など物件の状況をよく確認しておくことや、契約締結時において、原状回復などの契約条件を当事者双方がよく確認し、納得したうえで契約を締結するなどの対策を的確にとることが、トラブルを未然に防止するためには有効であると考えられます。”(“ ”内はガイドラインを引用)。
要は,この原状回復問題は,賃貸借契約が終了したときの問題ではなく,賃貸借契約を締結したときの,問題,すなわち賃貸借契約書の内容の問題だということです。