課税価格と相続税評価額とは違う
Q
1人の相続人が,被相続人名義の貸金庫内の内容物を,持ち出すか,内容物を確認することはできるか?(遺言書がない場合)
A
1 貸金庫の利用者の権利は,相続人共有の,内容物全体を一括して引き渡すことを請求する権利であるので,相続人1人が単独で内容物の持ち出しはできない
最高裁判所第二小法廷平成11年11月29日判決の内容は,昨日のコラムで解説しましたが,その判例を待つまでもなく,利用者の銀行に対する内容物の引渡請求権は,全相続人の共有財産ですから,相続人の1人が単独で,内容物の持ち出しはできません。
2 内容物の確認は?
公証人には五感の作用により直接見聞した事実を記載した「事実実験公正証書」を作成することができる=公証人法35条)ので,1人の相続人が,公証人の立会の下で,貸金庫の内容物の確認をしても,共有物の保存行為として許されるという考えもありますが,裁判例はない模様です。
なお,関西金融判例・実務研究会「貸金庫取引をめぐる諸問題」では,都市銀行の事務統括部は,銀行員及び公証人の立会の下で相続人1人の貸金庫開披及び確認には,前向きの記事を書いています。
3 コラム掲載後の銀行の扱い
本コラムを書いた後の,平成28年2月17日付で,株式会社中国銀行は,貸金庫の内容物を持ち出さないことと,公証人の「事実実験公正証書」の作成を条件として,相続人の一人からの,貸金庫の開披を,保存行為として,認める見解を表明しました。
他の相続人の権利を害するおそれのない場面での,透明性のある,相続人の利益に適う処置であり,英断であり見識と言うべきです。