不動産売買契約書のチェックポイント
消費者契約法とは,便利なもの
知っておくべきは,9条1号と10条のみ
後は知らなくともよい
しばしば起こるは,9条1号問題
知っておくべき知識なり
消費者契約法9条1号は,違約金の定めのうち「平均的損害」を超える定めは無効になると規定しています。この規定は,どのような契約に及ぶのか?といいますと,
(1)自宅の建築請負契約には,この規定が及ぶ
ア)千葉地裁平成16年7月28日判決は,「施主の都合で契約を解除するときは施工業者に対し請負代金額の20%に相当する違約金を支払わなければならない」との請負契約約款に基づき,請負業者から施主に対して違約金約400万円の支払いを請求した事件で,この契約は消費者契約法の適用を受けるとした上で,同法9条1号に書かれた平均的損害の金額は,請負業者が主張立証責任を負うとし,請負業者が違約金の具体的算定根拠を明らかにしない場合の事業者の平均的損害は,既に買主が支払った10万円を超えないものとして扱うほかなく,それを超える違約金条項は消費者契約法第9条第1号により無効であるとして,請負業者からの請求を棄却しました。
イ)東京地裁平成18年6月12日判決は,ログハウスの建築請負契約を,建築業者が契約の履行をする前に,施主から同契約の解除をしたケースです。
契約書には,「施主は諸般の事由によりこの契約を解除することができる。ただし,施主は業者に対して建築請負金額総額の3分の1又は施主の解除により生じた業者の損害金額のいずれかのうち大なる金額を賠償しなければならない」と定めていました。
判決は,この契約には消費者契約法第9条第1号の適用があるので,平均的な損害については業者が立証責任を負うが,公図取得料,交通費,土地登記簿謄本の取得費用等が平均的な損害として認められるものの,それらは合計しても10万円を超えないことは明らかであり,したがって,前記条項は10万円を超える限度で無効である,と判断しています。
(2)アパートや賃貸マンションの建築請負契約には,消費者契約法の適用はない
個人であっても,「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」は消費者ではないので(消費者契約法2条),アパートや賃貸マンションなどの収益事業を目的とした建物の建築請負契約では,違約金の定めは平均的損害を超えていても有効です。
(3)宅建業者が売主になった宅地又は建物の売買契約にも及ばない
これはすでに解説したところですが,法律上の根拠を示しておきますと,消費者契約法11条が,消費者契約であっても,契約で定めた法律効果について「民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。」と定めているからです。
宅地建物取引業法39条1項は,宅建業者が売主になって結ぶ不動産の売買契約では,違約金は代金の額の10分の2を超えてはならない(宅地建物取引業法39条1項)と定めていますが,この規定はまさに,消費者契約法11条でいう「民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるとき」の「その定め」になるからです。
ここから,代金の10分の2,すなわち2割までの範囲で違約金を定める場合は,その違約金が平均的損害を超えるものであっても,有効になるのです。