軽い認知症を患っている母の,財産の管理と相続をする相談
1,事件
①夫が亡くなり,妻と子が遺産分割協議を始めました。そして,ある程度協議がまとまりかけた時点で,遺言書が発見されました。
➁遺言書には,「私は,不動産、株式、預貯金を全部妻甲に遺贈する。」と書いていました。
③しかし,妻は,遺産分割協議がまとまりかけていたので,遺言書のあることを承知の上,遺産分割協議を成立させました。
④その後,新たに,預金のあることが判明しました。この預金は,③の遺産分割には含まれていません。しかし,➁の遺言書の中の預金ではあります。
⑤そこで,妻は,④で新たに判明した預金は,自分のものだと言ったのですが,他の相続人は納得しません。
⑥そこで,妻は,その預金は,自己の権利に属するものだとして訴訟を起こしました。
2,原審の判決
原審は,
ア)妻が,遺贈を受けたことを知りながら,他の共同相続人と分けるという,遺産分割の対象にした財産については,遺贈を放棄したものである。
イ)④で新たに判明した本件預金は,③の遺産分割協議の対象とはされなかったので,遺贈の放棄をしたものとは認められない。
ウ)しかしながら,「本件遺産分割協議(③の遺産分割協議のこと)が有効に成立したことにより、本件遺言はその役割を終えたものと見るのが相当であるから、本件遺言による遺贈の効力はもはや本件定期預金には及ばない」と判示しました。
3,最高裁平成12・9・7判決
同判決は,ウのの判断は,法令の解釈適用を誤った違法があり、破棄を免れない,と判示しました。
甲が遺贈の放棄をしたものとは認められない本件定期預金が,「本件遺産分割協議が有効に成立したことにより、本件遺言はその役割を終えたものと見るのが相当である」という理屈はないという判断です。
参照
民法986条1項
受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも,遺贈の放棄をすることができる。
4,破棄の理由
原判決の,「本件遺産分割協議が有効に成立したことにより、本件遺言はその役割を終えたものと見るのが相当である」という理屈には,法律上の根拠がないという判断です。