コラム
メール相談より。いわゆる「相続させる」遺言書と遺言執行者との関係
2016年11月29日 公開 / 2018年8月9日更新
問
1 「妻に全財産を相続させる。」と書いた遺言書の場合,遺言執行者は要らないのですか?
2 「妻に全財産を相続させる。」と書いた遺言書では,遺言執行者を指定する事項も書くと,遺言書は無効になるのですか?
3 いわゆる「相続させる」遺言書でも,遺言執行者を指定している遺言書は多いと聞いていますが、事実ですか?
答
1 通常の場合,いわゆる「相続させる」遺言書は,遺言執行の対象にはなりません(最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決)。
すなわち,「相続させる」対象の財産は,「相続させる」対象の相続人(これを「受遺相続人」といいます。)に,相続開始と同時に,移転していますので,遺言執行というものはありません。
ですから,「相続させる」財産が不動産の場合は,受遺相続人が単独で相続登記手続ができます。
「相続させる」財産が預貯金の場合,受遺相続人が単独で銀行に対し払戻請求ができます。
遺言執行は必要ないのです。
2 しかしながら,「相続させる」遺言書の場合でも,遺言執行者が常に要らないというものではありません。
もし,受遺相続人A以外の相続人Bが,「相続させる」遺言書でAに相続させた不動産につき,B名義に移転登記したような場合は,受遺相続人Aは,「相続させる」遺言により直接取得した所有権に基づいて,その妨害を排除するため、Bへの所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができますが,遺言執行者もまた,遺言の内容を実現するため,妨害排除として,受遺相続人ができるのことと同じことができるのです(最高裁判所第一小法廷平成平成11年12月16日判決)。
ですから,「相続させる」遺言書に,遺言執行者を指定する遺言事項を書き加えても,無効になるものではなく,また,役に立たないものではありません。
3 公正証書遺言を作る場合,多くの公証人は,「相続させる」遺言書であっても,遺言執行者を指定することを勧めておりますので,公正証書の場合は,「相続させる」遺言書でも遺言執行者が指定されているケースは多いと思われます。
遺言執行者は,遺言書の実現を使命とするものですから,平成11年の判例で認められたような権限はありますし,今後,平成11年判例の事案とは違った形で,遺言書の実現に支障が生じた場合,遺言執行者に一定に役割が認められる場合もあるでしょう。
その例の一つとして,銀行が「相続させる」遺言書の効力に関する平成3年の判例を理解せず,受遺相続人からの預金払戻請求を拒否したことがあり,そのケースで,遺言執行者からの預金払戻請求を認めた地裁判決がありました。ただ,この地裁判決は,高裁で,受遺相続人が単独で預金の払戻請求ができるので,遺言執行者に同じ権利を認めることはできないとして,取り消されましたが。
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