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2050脱炭素は国や特定の人がやる事じゃない~建築実務者の視点から

2021年7月15日 公開 / 2021年8月3日更新

テーマ:リフォーム

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: エコハウスリノベーション工事

こういう文章は、普通は20××年は〇〇で、その□△%削減を目標にしよう、などというデータ解析的なことから書き始めるのが常ですが、すべての人が関係している住宅のカーボンゼロをどうするかについて持論を述べたいと思います。

まずはこちら長野県のホームページをごらんください

|なぜ脱炭素しなければならないのか?

2050年といえばこれを書いている現在(2021年)からたったの29年後。
机の上やマイクの前でやるやらないなどと言っているイトマははっきり言って、ない。

そのとき私自身はかろうじて生きているか、少なくとも生産的な事業活動はしていないだろう。
だからといって無責任にどっちつかずではいられない。
確かに温暖化は深刻だと感じているし、原発によるエネルギーの依存は無くしたい。

このままだと、人類は地球を壊してしまう、回復できなくなる、
だからカーボンZERO・脱炭素なので、この前提にまず立たなくてはすべてが始まらない、危機感を共有できない。

昨年から内閣府主導で、国が脱炭素社会の規制改革=あり方検討会が行われている。
会議はSNS動画で一般公開されており、住宅の高断熱化やエネルギーのあり方のところは、日ごろの住宅設計に大いに関係しているので興味深く視聴している。

まずは”2050年こうあるべき”の姿を描き、そこから逆算して2040年までにはこのくらいまで、2030年までにはここまで、という目標を立てようというのがバックキャスティングという考え方をしてゆこう、というところまではようやくきた。
しかしそれ以降はなにも決まらない・何も変わらない、責任を負う人が決まらない。
いったいいつまで検討するんだ状態に陥っているのではないだろうか。

|バックキャスティングすると・・・見えてきたのは

マラソンの選手だって、零細企業の経営者だってバックキャスティングしてる。
最初の10kmは〇分△秒を目標に、20km地点では□分を目指して、というように。

バックキャスティングすると、この数年間のあいだに、相当な、かなりの省エネ化・エネルギー転換を図らなければならないということが見えてくる。
それはもはや、人類の考え方や行動がどう変わるのかと同義だと言ってよい。
先のあり方検討会では、2025年に現行の超貧弱な省エネ基準を義務化する案が濃厚なのですが、
いやいや、そのペースで2050カーボンゼロは到底無理でしょう、というムードに国交省住宅局の方々は全く気付かず・・・。


私の経験では(50年にも満たないが)、10年間の間にできることは、3か年計画とか5か年計画という言葉があるように、大きな物事は1つか2つしかできない。あれもこれもと欲張るのはすべてが中途半端になるだけだ。
2050年から逆算し、あいまいな基準ではなく、バシッとした目標を立て(理想ではなく)、5年ごとの中期目標をつくって達成度をたしかめてゆくバックキャスティングは、絶対に達成しなければいけない目標・目的のためには必要なことだろうと思う。
中間目標を達成していなければ、さらに基準を高める必要があるのは道理だ。

新築住宅については、外皮断熱性能=G2レベル、できればパッシブハウス相当に、
という提言が長野県では示されているが、
現状でそのレベルまで達成できている新築住宅は10棟に1棟もないようである。

パッシブハウス

「しかしまあ時間はかかるかもしれないが、仮に現状で数%でもすこしずつ増えていっている傾向があるのだから、G2の義務化とまではゆかなくとも、気運が高まれば一気に普及してゆくのだろう」、というのがもう一人の私の中にある野次馬的な楽観論。

気運を高めるには補助金や融資条件優遇などが常套手段ではあるが、そんなことよりも、その居住空間の快適性や家計にやさしいという情報がSNSをはじめ様々なポジティブな情報が拡散し始め、目覚まし時計はすでに時を刻み始めていると感じているので、私自身はそうした自然発生的・自主的なうねりを期待。うねりはマストとなりいつの間にかそれが当たり前になっている。
理想だとは思うんだけど・・・(汗)、「2050カーボンゼロ」ですから、やはり現気運頼みでは間に合わない公算が大。

|できます・やってます派の工務店を選んでください

最後は政治判断か。
リーダーが我々の涙腺を緩めるくらいの強烈なメッセージを訴えることができるか。
みんながそれに共感できるか。
現場・実務も大事だけれど、こういうことは気持・意識が変わらないとなかなか、ね。

はたまた、
「まだまだ生産者(我々工務店など)がそうした建物を建設できるレベルに達していない」
「消費者の過度な経済的負担を強いることは、景気の冷え込みにつながるため慎重に判断しなければならない」
などといった誤った認識がどこかに、どうやらあるようだ。

「いやいや、すでに準備はできてるぜ」
「義務化するぞって、おいおい。こっちはとっくにやってるわ」
という「できます・やってます派」と、ネガティブな「できない・やらない派」が建築業界内に混在しているのは確か。

書籍やSNSを使って建築のこと、エネルギーのことを勉強している人は出来ます・やってます派をすでに選んでいる。
それが証拠にG2レベル・パッシブハウスの住宅生産者はすでに1年~2年先まで行列ができている状況だ。
そうなれば造り手さえ増えればカーボンゼロの住宅は一気に増えてゆくだろう。
私もここ数年、暮らし手もその家の設計時点で光熱費がいったいどれくらいかかるのか、ユーザーから先に質問をされるようになってきている。

|やっぱりG2レベルを義務化しないと話は始まらない

現行の省エネ基準は、コワいほどに燃費を食う住宅となります。
平均的な35坪の住宅で省エネ基準の断熱性だと、年間の暖房費な長野市で灯油換算で1000ℓを超えます。(¥100/ℓで10万円)
これまで賃貸住宅で寒さ暑さに我慢をしながら省エネしてきた世帯が、そこそこ断熱性能の新築住宅で暮らすと一気にエネルギーを消費する。
省エネ基準程度の住宅を義務化しても意味がないばかりか、逆に増エネになる。
このことはすでに燃費を計算しながら設計をしている実務者の間では常識である。

しかし外皮性能G2で建てると1000ℓが400ℓ程度にガクンと下がります。
ただ、外皮性能だけを良くしようとすると、窓が小さく、長野県の武器である「冬期の日射による熱」を得ることができないので、
長野県では「パッシブハウス相当」という目標も併せ持つこととなっています。
熱を窓から得ようと窓を大きくすると外皮性能(Ua値)は悪くなります。
この辺りも勉強が進んでいる実務者では常識であり、「断熱性能と暖房エネルギー消費量は比例しない」ということが分かっています。

建築には当然つくる過程や運搬でも膨大なエネルギーを要するので、本物のZEROカーボンを目指すのであれば、建物の長寿命化は当然として、運輸や製造もカーボンZEROにせねばならない。
しかしそれでは経済が回らないのか、いまだ日本住宅の寿命は30年とされており、「この期に及んで」まだ30年ポッキリ使い捨て建売住宅が乱立しており、個人的にかなり高いレベルでの住宅性能をもつ新築住宅の義務化し、併せて暖房の燃費を提示義務に。
加えて建物寿命を60年以上にし、50年未満で除却する場合はペナルティーを、というのが是だと感じております。

|問題はやはり既存の低断熱住宅

新築はとにかく一刻も早く低燃費化し、創エネし、ゼロエネ(外皮性能G2ではない)を義務化することとされたい。
しかし問題はやはり既存住宅ということになる。

結露との闘い
ここ10年、サッシ窓の断熱性能は大きく飛躍はしたものの、30年以上前の既存住宅が大勢を占め、まだ圧倒的に多いアルミサッシ。
ペアガラスならまだしもシングルガラスも数多く存在し、石油ファンヒーターでガンガンに暖房し(CO2を排出し)、ますます結露を促進し、
結露水は床を腐らせ、土台を腐らせ、建物の寿命を短くしている要因ともなっている。

断熱材がない住宅もまだ多数見受けられるし、いまさら断熱改修しても経済的に無意味だとする考え方も根が深く、
あいかわらず灯油・ガス・電気を大量消費し「カーボンニュートラルなんてどこ吹く風?」の状態である。

これら昭和の家・平成の家をどうしたらいいのか、という点について列記してみたい。

1、建て替える
2、既存の建物を断熱・耐震改修を行い、エネルギー消費を減らし、長寿命化する
3、大量に自己消費しているエネルギーを賄うべく、大量の創エネ(太陽光発電)で打ち消す
4、ペナルティーと言えなくもない課税制度を導入し、お金で解決を図る
5、未練はあっても売却し、コンパクトシティーなど集約・効率化された集合住宅に移り住む
6、江戸時代以前のような(?)、そもそもエネルギーを消費しない生活を行う
7、実家を離れた子が、親の住む家のリフォーム資金提供者となり、銀行は無利子でその資金を貸し出す・あるいは子の税制を優遇する
8、自らの家を自らの手によって省エネリフォーム、つまりDIYで断熱改修工事を行う

いろいろな角度から考えてみたが、私の頭ではこのくらいしか出てこない。
カーボンゼロなので、全世帯、全員が取り組まねばならない、ということをまず共有しようではありませんか。

各戸・各自によって様々な事情があるだろうし、答えはこの中に一つということでもないだろう。
適確・適切なアドバイザー(行動仕掛け人)がおそらく必要になってくるだろう。

この記事を書いたプロ

塩原真貴

木造住宅を耐震・断熱構造に生まれ変わらせるプロ

塩原真貴(株式会社Reborn)

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