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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

空き家対策の現状~空き家と住まいの終活を考えるシリーズ⑥~

2022年10月17日

テーマ:空き家と住まいの終活

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: まちづくり空き家対策空地 活用

前回は放置空き家が引き起こす損失を見ましたが、このような空き家問題に対し、どのような主体が、どのような対策をしているのでしょうか。公的セクター、民間セクター、公民連携ごとに確認していきます。

(公的セクター)
2019年10月1日現在、全国の市町村の約63%にあたる1091の地方自治体で空き家等対策計画が策定され、空き家の発生抑制、適切な管理、除却を含む利活用などが検討・実施されています。また、特定空き家等に関する措置や空き家等対策協議会、地方自治体の相談体制なども定められています。

例えば、大阪市では空き家の利活用(子ども食堂や高齢者サロン等)のための改修費の補助、耐震診断・改修・除却費の補助、狭い道路に面した古い木造住宅の解体費の補助制度等があります。更に、空き家の解体や建替え等に必要な資金を借り入れた場合に、金融機関と連携して金利を優遇しています。

大阪市と同様に多くの地方自治体でも、空き家の解体費や改修費、公益的施設として利活用する場合の借上げ費用等の支援をしています。しかし、まだまだ検討段階に留まっている施策も少なくありません。


(民間セクター)
民間セクターでは、如何にマネタイズできるかが問われるため、空き家問題をビジネス化することは簡単ではありません。しかし、以下のようなビジネスチャンスを見出しているケースがあります。

―解体―
解体業者に関する情報は十分に提供されているとは言えません。よって、空き家の解体を決定しても、低料金で安心して任せることができる解体業者選びに苦労します。そのため解体を断念したり、先送りすることが懸念されます。

この不安を解消するため、㈱クラッソーネは全国約1500社の解体業者とユーザーをマッチングする一括見積WEBサービスを提供しています。解体業者を直接紹介することで多重下請け構造を解消し、コストダウンを図っています。

―流通―
空き家でも資産価値や利用価値を認めれば、不動産業者は仲介やリフォームをして流動化することは可能で実際に行われています。問題は、資産価値が低いために不動産業者も扱わない空き家です。

このような空き家を流動化させるため、家いちば㈱は、不動産業者のコミットを最小限とした売主と買主が直接交渉するセルフセル方式を採用しています。契約のクロージングまでは、所有者が物件の特徴を直接売主へアピールするなどして、不動産業者が扱わないような空き家の買主探しを支援しています。

―管理―
空き家管理の重要性を理解しても行動へ移せない、あるいは空き家の期間が長くなるにつれて管理が疎かになるというケースは少なくありません。面倒な管理業務をビジネスチャンスと捉えた事業も生まれています。

例えば、NPO法人空地・空家管理センターでは、外観目視を中心に手軽にできる「100円管理」や、将来の利活用を想定して換気や雨漏り点検等を行う「しっかり管理」といったサービスメニューを提供しています。

(公民連携)
多角的な対応が求められる空き家対策には、公的セクターと民間セクター等の連携が欠かせません。国土交通省では「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」を採択し、相談窓口の整備、住宅市場を活用した新たなビジネスモデルの構築、新たなニーズに対応した総合的・特徴的な取組みが行われています。

―空き家バンクー
空き家バンクとは、空き家の売却又は賃貸を希望する所有者等から申込みを受け、定住等を目的として空き家の利用を希望する者へ紹介する地方自治体と不動産事業者等が連携した制度です。その中で全国版空き家バンクのユーザー数は、コロナ渦による地方拠点への関心の高まりもあって増加しています。

その一つ㈱ILFULが運営する全国版空き家バンクでは、住み替え先の地域が決まっていないユーザーに対し、「地域」に加え「住みたい暮らし」から物件検索ができるようにして、住みたい地域と出会えるきっかけづくりをしています。

―空き家の解体―
㈱クラッソーネは、解体費費用のシミュレーターや見積サービスを地方自治体に無償提供し、空き家所有者等への啓蒙活動に活用しています。解体費用の相場をその場で確認できる「AIによる解体費用シミュレーションサービス」は、国土交通省のモデル事業に採択されています。

―相談窓口・自治体職員支援―
空き家管理サービスを提供するNPO法人空家空地管理センターは、地方自治体と連携した空き家の相談窓口を運営しています。空き家の利活用方法などの相談や提案をする「空き家のワンストップ窓口」は、「平成28年度東京都相続空家等の利活用円滑化モデル事業」にも選定されています。

また、同法人は空き家の所有者等はどのような課題を抱えているか、近隣住民はどういったことに困っているか、自治体は何をしたら良いかなどをテーマに地方自治体の職員へ講演や提言を行っています。

(まとめ)
空き家対策特別措置法の施行など空き家への社会的関心も高まるなかで、空き家問題に関わる主体の取組みを概観しました。空き家は私有財産であるため所有者責任が原則ですが、外部不経済を与えるなど個人の問題に留まりません。

次回からは、空き家問題の事前対策と事後対策の現状と課題を比較検討し、事前対策を推進する上での問題点を抽出します。

以上

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菊池浩史(住まいの消費者教育研究所)

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