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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

放置空き家が招く損失~空き家と住まいの終活を考えるシリーズ⑤~

2022年10月11日

テーマ:空き家と住まいの終活

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: 終活 いつから空き家対策空地 活用

空き家の中でも放置空き家は、利活用の予定がないとか、権利関係が錯綜するといった原因で空き家期間が長期化し、建物の老朽化が進行することは既に指摘した通りです。その結果、近隣への迷惑、家計への負担、行政からの指導などの問題が発生します。

(近隣への迷惑)
放置空き家は、換気不足、給排水管やガス管の劣化、雨漏り、害虫や害獣の棲みついたりして建物が劣化しやすくなります。具体には、雨樋や屋根瓦の破損、雨漏りによる天井や床の汚損や腐朽、ネズミや野良猫などの動物の寄生、ドアや扉の損耗、外壁の汚れや破損といった劣化現象が現れます。

その結果、不審火の発生、外壁材の飛散や落下、家屋の倒壊などの防災面の不安や、防犯面でも不審者の不法滞在や犯罪を誘発しやすくなります。他にもゴミの不法投棄、雑草の繁茂、落ち葉の飛散や樹枝の越境などによって景観を損ねてしまいます。

このような生活環境の悪化は、人口流出、そして空き家の増加へと繋がります。自治会などの地域活動の担い手不足を招き、病院やスーパーなどを維持することが難しくなってきます。その結果、税収が減少しインフラの維持管理が難しくなり、更に人口流出に拍車をかけるという悪循環に陥ってしまいます。

以下は実際に起こった外部不経済の事例です。
(事例1)
約24年間管理不全状態だった空き家が不審火により夜間に出火し、空き家を含めて3棟が全焼し、他に1棟がほぼ全焼。更に、道路を隔てた4棟の火元側の壁一面が焼け焦げるなどの被害が発生。
(事例2)
約30数年間、放置された空き家(借地)の屋根や外壁の一部が崩落。強風時や大雨時に腐朽した屋根材や外壁材の一部が落下。隣家の外壁の一部を損壊。借地権者の借地権放棄により土地所有者が解体・撤去費を負担し、危険除去。
(日本住宅総合センターの公表資料から引用)

(家計への負担)
空き家でも次のような維持管理に伴う費用負担が発生します。
①土地と建物の固定資産税・都市計画税
②電気、水道などの基本料金
③万一に備えるのであれば火災保険料
④建物の修繕費
⑤空き家を管理委託すれば委託手数料
⑥空き家が離れた場所にあればそこまでの交通費

具体の金額は、住んでいる地域や維持管理の方法で異なります。例えば、固定資産税評価額が土地2,000万円、建物500万円だとしたら固定資産税等は年間15万円程度になります。電気と水道代の基本料金を4万円程度とすれば、これだけで年間20万円の負担です。また、マンションはこれに管理費と修繕積立金が加わります。

空き家の火災保険料は、居住中の建物に比べ保険料が割高なため、年間6万円くらいになります。④~⑥は管理のやり方次第ですが、空き家期間が長くなれば建物の劣化が進んで修繕費は嵩みます。また、管理委託をする場合は、月額数千円から1万円くらいが多いですが、業者によって委託内容や料金が大きく異なります。

その他に、更地で売却するとなれば建物解体費用が必要です。床面積100㎡の木造家屋だと200万円前後の解体費になります。但し、建物を解体し更地になれば固定資産税の住宅用地の特例が受けられなくなり、建物の税負担はなくなる一方で土地の税負担が最大6倍に跳ね上がります。

そして忘れてならないのは、空き家が原因で損害が発生した場合の賠償責任です。建物の管理が不十分なために工作物責任(民法717条)が認められた判例もあります。今後は空き家の管理不全を理由に所有者等に賠償責任が認められる可能性は十分にあります。

(行政からの指導等)
2015年に空き家対策特別措置法が完全施行された結果、市区町村は近隣に著しく悪影響を及ぼしている放置空き家を特定空き家等に指定し、助言・指導・勧告・命令・代執行ができることになりました。

特定空家等とは、概ね1年間使用実績がなく、次のような状態にある空き家を言います。なお、マンションのような集合住宅の場合は、その建物全体が空室で老朽化が進んでいない限り、同法の対象外となります。
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

空き家対策特別措置法の施行からの6年間(2015年度~2020年度)の実績は、「助言・指導19,029件」、「勧告1,351件」、「命令50件」、「行政代執行69件」、「略式代執行191件」であり、年々適用件数は増加しています。

また、神戸市のように空き家関連条例を制定し、空き家対策特別措置法に上乗せした改善指導等を行う地方自治体もあります。1年未満であっても相当の期間使用されていない場合や、一部が使用されている長屋の空き住戸を類似空家とすることで同法より適用範囲を拡大しています。

更に応急危険回避措置や同市の勧告に従わなかった場合は、所有者等の氏名等が公表されます。また、空き家対策特別措置法の特定空き家等でなくても、「居住の用に供するために必要な管理を怠っている場合等で今後、人の居住の用に供される見込みがないと認められる場合」などに該当すれば、固定資産税の住宅用地の特例が適用されないこともあります。

(まとめ)
このように管理不全の状態で放置された空き家は、所有者等の経済的・精神的負担を増大させます。また同時に、安心安全(治安)、環境、衛生等への外部不経済を発生させて、地方自治体からの改善指導や、氏名の公表といった社会的制裁を受けることもあります。

つまり放置空き家は、所有者等の個人資産を毀損するだけではなく、地域社会にも損失が及ぶ極めて公共性の高い問題です。周囲に迷惑はかけたくない、適切な管理が大切でそれにはお金と時間が必要だということを多くの所有者等は自覚していると思われます。但し、そこには意識と行動のギャップがあるものと推察されます。

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