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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

住まいの終活と住教育①

2023年3月16日

テーマ:空き家と住まいの終活

コラムカテゴリ:住宅・建物

(はじめに)
私は現在、主に高齢者の方を対象に、京都市内で住まいの終活の講座を開いています。そこでは、様々な悩み事をお聞きしており、始めにいくつかをご紹介します。

~空き家の取り扱い~
・高齢の母が一人暮らしをしており、その実家をどうしたら良いか。
・将来、空き家になる可能性があるが、話し合いが難しい。
・叔母が独居で亡くなった時が不安、話しづらいのでどうしたら良いか
・遠方に空き家となった実家がある、どうしたものか。
・売るべきか、売れるかどうか、リフォームして住み続けるべきか
~空き家の売却~
・いずれ空き家になるがどのように処分していくか、処分の課題を知りたい。
・早く売却したいが、接道していないから難しい。
・今一人で住んでいるが、次世代は住むつもりがない、売却したい。
・売れるかどうか心配。どこに相談すれば良いか。
・自宅の処分をしたいが、どうしたら良いか
~空き家の活用~
・貸すことを考えているが、何からどこへ相談したら良いかわからない
~空き家の管理方法~
・老朽化してくる箇所の具体的な維持管理方法や費用、庭木や雑草の手入れ方法、修繕する時期、自分でできることは何か。
・全面リフォームがいいのか、部分リフォームが良いのか。

実に様々な悩み、そして根深い問題であることがお分かり頂けるかと思います。一言で表せば、「どうして良いかわからない」状況の方が少なくないということです。そこで、住教育という視点から住まいの終活を考えていこうと思います。

(住まいの終活の位置づけ)
住まいの終活とは、所有者やその家族などが元気なうちに、家族や信頼のできる方と相談し、「将来、我が家をどうするかという選択肢を検討し実践していくこと」と定義します。

住宅の適切な管理や空き家対策の必要性、そのための具体的な取組みを学ぶ住教育の推進が、住まいの終活の普及には有効な手立てだと考えています。だとすれば空き家問題への理解をどう深めていくかという問題は、どのように住教育を実践するかという話に繋がります。

教育には一定の成果が期待されますが、それは住まいの終活に対する態度と行動の変容だと思っています。そして同時に、住宅を所有する者の一つの責務とも言えるのではないでしょうか。

(住まいの終活とは何?)
住まいの終活への理解を深めるために、いわゆる終活や相続対策と比較してみます。
住まいの終活・終活・相続対策

このように住まいの終活とは、自宅を次世代へスムーズに継承するためにする事前対策に加え、相続後に発生した空き家への対応も含まれます。

(住まいの終活はなぜ必要?)
住まいの終活が必要とされる背景には、少子高齢化や世帯数が減少するなかで、特に単身の高齢者世帯が増加していく人口動態があります。また、その中で毎年80万戸程度の新築住宅が供給され続けて行けば、それ以上の住宅を解体しない限り、当然空き家の増加は続きます。

このような背景を踏まえ、個人と地域の視点から住まいの終活が必要な理由を整理します。

個人の視点
一つは、家計負担の低減と損失回避です。空き家になっても電気代や水道代、固定資産税などの負担は続きます。そして、建物修繕費、遠方に居住する場合は交通費、空き家管理を業者に依頼すれば委託手数料などのコストが新たに発生します。その他、空き家が原因で第三者に損害を与えれば、賠償責任に発展するケースも見られます。

また、住まいの終活は自宅の資産価値低下を防ぐ狙いもあります。空き家を放置すれば劣化が進み、資産価値は大きく毀損し、将来の売却や利活用の障害となります。

地域社会の視点
空き家の管理が適切に行われていない放置空き家は、外部不経済という負の影響が地域に生じます。具体的には、不審火、不審者の不法侵入、ゴミの不法投棄、雑草の繁茂、劣化した屋根や外壁材などの飛散や落下などです。同時に良好な景観が損なわれてしまいます。

現在、外部不経済を齎す空き家の所有者には、空き家対策特別措置法によって改善指導や自治体によれば住所・氏名が公表される場合もあります。

こういった損失や不利益を避けるためだけでなく、自宅を有効活用することで得られる恩恵を享受するためにも、住まいの終活は必要と考えています。


(住まいの終活はいつから始める?)
住まいの終活は、次の理由で出来る限り早い着手が望ましいと思います。

一つ目は、空き家期間が長期化すれば建物の劣化は加速しますが、その一方で所有者等の関心は徐々と薄らいでいくため、時間の経過に従い打ち手が難しくなってきます。劣化が進む前に修繕する方が、当然費用は安く済みます。

二つ目は、時間が経過し二次相続などが発生すれば、相続人の数が増えて意見調整が難しくなると覚悟した方がいいでしょう。そのために少なくない時間や費用が割かれます。

三つ目は、所有者等が認知症などを患い、意思能力の喪失や制限行為能力者になれば契約行為が制限され、自宅の処分といった法律行為ができなくなります。もちろん成年後見人制度や家族信託制度を利用する手段もありますが、費用負担や制度利用の制約はあります。

その他、空き家期間が長期化すると家計の負担が増え、行政や近隣住民との利害調整に巻き込まれることもあり得ます。このような経済的・精神的・時間的な負担を縮減するためにも、早い段階での着手をお勧めします。

(住まいの終活の選択肢は?)
それでは、住まいの終活にはどのような選択肢があるのでしょうか。発生抑制・利用促進・適切な管理と除却の促進という三つの視点で類型化してみます。

発生抑制とは、所有者の死後に自宅を可能な限り空き家にしないため、空き家のリスクや空き家対策の重要性を理解して、家族間で現状を把握し自宅の取扱いを検討・共有することです。

利用促進とは、相続等が発生する前、空き家を取得した時点、あるいは空き家になってしまった段階で、その自宅をどう利活用するか(自ら利用するか、売却するか、賃貸するかなど)という対処方針を決めて実践することです。

適切な管理と除却の促進とは、資産価値を維持するために適切な管理をしたり、活用困難と判断した住宅を除却し更地にしたりすることです。

(まとめ)
今回は、住まいの終活の3W1H(何?なぜ?いつから?どうやって?)を再整理しました。
次回は、選択肢のうち、空き家の発生抑制を取り上げます。

以上

この記事を書いたプロ

菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(住まいの消費者教育研究所)

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