宅建業者の瑕疵担保期間についての特例を設けた理由
「押し買い」問題の救済例(後段)1
・詐欺を理由に売買契約を取り消したうえ、詐欺をした宅建業者は顧客に対し120万円の損害賠償義務があることを認めた裁判例
東京高裁平成14年1月16日判決(控訴棄却・確定 判例集未搭載 RETIO2003.6№55)事案の紹介
1.時系列にした事実関係
⑴マンション住戸A(専有部分)の所有者甲が宅建業者乙との間に、住戸Aを売買価格1650万円とする売買の媒介委託契約を締結
⑵その12日後、乙は甲を訪問し、住戸Aは1000万円で売ることも難しいが、乙ならモデルルーム用に1220万円で買ってもよいと持ちかけたので、甲は乙の言葉を信じて住戸Aを1220万円で乙に売る売買契約を結んで120万円の手付金を受領した。
⑶その後甲は別の宅建業者丙から、➀「住戸Aと同じ一棟のマンション内にあって住戸Aとは同じ間取りの住戸Bを丙が媒介して1650万円で売れた。」ことと、②「丙が乙に対し住戸Aを買いたいと申し出ると、乙は既に買い手が付いていると回答した。」ことを聞かされた。
⑷そこで、甲は乙に欺されたと考え、乙に対し「住戸Aは乙には売らないし、引渡しもしない。」と通告した。
⑸そこれに対し、乙は甲に対し、手付金120万円の返還と、債務不履行による違約金120万円合計240万円の支払を求めて控訴した。
⑹一審の東京地裁は乙の請求を棄却したので、Bは東京高裁へ控訴したが、東京高裁は乙の控訴を棄却した。
2.東京高裁の判決要旨
⑴ 宅建業者乙が住戸Aにつき「1000万円以上では売ることが困難であるとの不合理な説明を素人にし、それに加えて住戸Aを宅建業者乙に売った方が甲には得策であると甲が信ずるように申し向けたことは詐欺になる。よって、甲が住戸Aを宅建業者乙に売った売買契約は甲が取り消すことができる。
⑵さらに乙の詐欺行為により、甲は転居のための諸費用及び精神的損害として120万円の損害を被ったと認められるから、乙は甲に対しその損害賠償請求権をもって乙に対する120万円の手付金返還債務と相殺することができる。
3.この判決文を照会した山田英夫氏の意見
「もし売主が、業者による買取りを希望するのであれば、媒介契約を合意解除した上で、新たに買主の立場になることを明示して売買契約を進める必要がある。その場合、買取価格等についても売主に十分に納得を得られる説明をすべきである」との意見が付されている。