23 日本の上場会社は社外取締役の働かせ方を知らないのではないか ?
31.ここまでで見えてきた、社外取締役のしている職務・その姿
古諺に言う。悪事千里を走ると。
だから、真面目に職務をこなしている、有能な社外取締役の言動は伝わらず、失敗例しか、目に、耳に、しないのは致し方ない.
ここまでに書いてきた、この連載コラムで取り上げた社外取締役の、した事、しなかった事のほとんどが、悪評といってよいものばかりである。
だからといって、よい仕事をした社外取締役、現にしている社外取締役の例もまた、無数にあるものと思われる。
それらを前提にしても、以下に引く事例に登場した社外取締役の、した事、しなかった事の事例は、言語道断であろう。
(1)東芝の監査委員会の曲解報告事件
第1幕
まず最初に“東芝に疑惑あり”とされる事件が生じた。
それは2020年に開かれた株主総会での議決権行使につき、東芝から海外の株主に対し不当な圧力をかけたのではないか?という疑惑であった。
第2幕
そこで、東芝は、疑惑にかかるものがあったかを、外部の弁護士を中心にした第三者委員会に調査することを委嘱した。
第3幕
そこで第三者委員会は、大株主の米ハーバード大学の基金運用ファンドに尋ね、同ファンドから、東芝側より著しく不適切な内容の接触を受けたため、議決権行使をしなかったとの回答を得た。そこで、第三者委員会はその事実を東芝に報告した。
第4幕
その後、東芝の監査委員会は、「東芝は海外の株主に対する不当な干渉に関与したことは認められなかった」と公表した。
第5幕
東芝の株主から、東芝と監査委員を務めた二人の社外取締役への非難が沸き起こり、東芝は、2021年の東芝の定時株主総会を前に、この二人を次年度の社外取締役候補者名簿から外した。
以上の 東芝の監査委員会の曲解報告事件は、見事な?ものであったのだろう。幕切れもを含めて。
結果として二人の監査委員は、事実上解任されたが、やむを得ないものであっただろう。
(2) フジテックの社外取締役がした取締役でなくなった者を取締役会会長にした行為
2023年2月に、フジテックの社外取締役が、創業家出身の社長が取締役を退任したのにその者を取締役会会長にした会社提出議案に賛成したことを理由に、外国籍のアクティビスト(物言う株主)から解任を求められ、臨時株主総会で解任されるという事件があった。
社外取締役は、すべからず、会社法を遵守し、会社法が認めないポストを縁故者に与えるなどをしてはならないのであるから、この解任は弁解の余地はないであろう。
上場会社は、非公開の会社とは全く違う、公共の財産であるからである。
(3)データねつ造事件の連鎖における社外取締役の責任
日本の産業界の弱点の一つに、製造業者のする品質データねつ造事件が、連年続いていることがある。
昨日のコラムに、社外取締役には、危機管理システムのチェック及び改善策提言のため、現場に足を運び汗をかく義務があることを書いたが、もし、日野自動車の社外取締役が、一日でも、一度でも、現場に足を運んで、従業員から十分な事情聴取をしておれば、同社のしてきた長年にわたる排ガスデータねつ造事件(2022年発覚)など、まだ早いうちに発見でき、被害を最小限に止め得たものと思われる。
このことは、読売新聞の精力的かつ熱心な取材による報道で明らかだと思われる(データねつ造の現場になったパワートレーン実験部が、その関係者以外には内容が見えないブラックボックスと化していたこと、その実験部に対し実験部の仕事をチェックさせる、つまりは右手のしていることを左手がチェックするような、利益相反行為までさせていたことは、簡単に見いだしえと思えるからである。)。
要は、多くの製造業の上場会社は、社外取締役を働かせていない現実があるのではないかと思われるのである。
(4)理想と現実のギャップ
前回のコラムでは、社外取締役のなすべき職務、あるべき姿を紹介し、今回のコラムでは、社外取締役がしている(又は、していない)仕事と現実の姿を紹介した。
そのギャップは、現時点では、あまりに大きい。
理想と現実の一致を果たせるよう、祈りたい。