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32.知識の種〈社外取締役)は沃土にこそ播くべし

2023年4月30日

テーマ:コーポレートガバナンス改革

コラムカテゴリ:法律関連

32.知識の種(社外取締役)は沃土にこそ播くべし

 社外取締役になった人には、大きな違いだが、会社の機関設計の違いによる、取締役会における審議事項の違いに、天地の開きのあることは、あまり認識されていない感がある。

(1)指名委員会等設置会社の場合
 指名委員会等設置会社の場合は、経営(執行役)と監督(取締役会)が分離されているので、取締役会は、「経営の基本方針」だけを審議・決定する。
具体的は、
➀ 執行役の選任・解任、
② 指名委員会、報酬委員会および監査委員会の委員の選任・解任、
③ その他
 a)すでに述べた危機管理システムの整備と実行も、会社経営の根本的秩序維持が問題になるので、これに含まれることは言うまでもない。
 b)最近増えてきたと言われる会社内の任意の勉強会的な「ESG推進委員会」などの設置と委員の選任も、取締役会で決めることになるであろう。
 c)TOB(公開買付け)開始の通知を受けたときの特別委員会の設置と委員の選任も、会社存亡の危機時の仕事であるから、取締役会の審議事項になるだろう。
④ 審議事項にならないもの
 それ以外の経営事項は、執行役が決定すべきことになるので、取締役会では、原則として、審議事項にならない。

(2)監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の場合
 これらは、経営(代表取締役と業務担当取締役)と監督(取締役会)が、分離できていないので、取締役会は、「経営の基本方針」も審議するが、実際の審議は、ほとんどが「重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任及び解任、支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」など経営に関する重要事項になる。

(3)天地の開き
 社外取締役は、社外取締役に選任してくれた会社の機関設計が(1)の場合と(2)の場合とでは、取締役会で審議する事項に天地の開きがあることを知っておくべきである。
(1)の会社の社外取締役になれば、「経営の基本方針の決定」についてのみ審議し、(2)の会社の場合は、そのほかに、「重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選任及び解任、支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」などを審議決定するので、
d1 新しい工場を建設するかどうか、
d2 どこに土地を買い求め、どのような工場を建てるか、設計は?仕様は?建築請負会社は?
d3 そのため銀行融資をいくら受けるのか、融資銀行をどこにするか、
d4 完成した工場の工場長を誰にするか、
d5 そこで働く労働者は、現地採用と本社からの出向をどういう割合にするか、
d6 出向させる従業員を誰にするか、
d7 そのため就業規則のどこをどのように変更するか、
などの経営事項を審議・決定することになるのである。
 そうだ。社外取締役の知見のほとんどない経営問題について審議するのだ。
任期1年間、最低でも月1回で2時間、出席義務あり、発言の内容は議事録に書かれ、株主総会では、物言う株主から、意地悪い質問をされるかもしれない。
それが監査役会設置会社と監査等委員会設置会社に選任された社外取締役の宿命になるのだが、ご存じであろうか?

(4)制度論ではなく、運用で解決をするべし
 機関設計を、監査役会設置会社にするか監査等委員会設置会社にした会社における取締役会は、事実上、代表取締役と業務担当取締役の独擅場(どくせんじょう)となった経営会議の場である。
 この経営会議の場は必要であるが、社外取締役が居ないとできない場ではない、また社外取締役が天稟や才幹を発揮できる場所でもない。
そうかといって、今、制度を変えることはできない。
そうなれば、運用面で解決するべきことになる。
➀社外取締役を経営会議から解放してあげること。
②社外取締役には、危機管理など「経営の基本方針」について審議および実行をしてもらうこと。
③そのため、社外取締役は、取締役会から独立した組織をつくること。監査役会設置会社の場合は、監査役も全員、これに参加してもらうこと。
④必要に応じ経営陣(代表取締役と業務担当取締役、当然その補佐となる幹部社員)にも出てもらうこと。
⑤この組織の名称は「社外取締役および監査役会議」でもなんでもよい。
⑥要は、籍は取締役会に置くが、活動の場は経営陣を監督する組織体に置き、事実上「経営と監督」を分離するのである。
そうしないと、いずれ社外取締役から反乱が起こされるだろう。“我々には、真に必要とする場所で意義ある仕事をさせろ”と。

(5)知識の種は沃土にこそ播くべし
 金融庁も東証も、社外取締役という知識の種を播くには、土地の沃土化を先にすべきではなかったのか?
“沃土として整備できてない土地に播かれるのは嫌だ。”と言い出す、知識の種からの抗議の声が、挙がるのは時間の問題だ。
運用面で工夫すべきことは前述した。
せっかくの知識の種を、腐らせることなかれ。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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