コラム
30.ここまでで見えてきた、社外取締役のなすべき職務・あるべき姿
2023年4月27日 公開 / 2023年4月29日更新
一 社外取締役のなすべき義務で、はっきり見えてきたものは、下記の(1)から(4)まであり。今後も、多種多様な義務が追加されてくることが見込まれる。
(1) 危機管理システムのチェック及び改善提言のため、現場に出て、汗をかくこと。
このことは、
➀大和銀行ニューヨーク支店事件判決で明確にされた、取締役会の危機管理システの大綱を整備する義務の存在、
②その後、会社法及び会社法施行規則で具体化されたその内容、
③前記判決が明記した、非常勤取締役(社外取締役ら)の危機管理体制の構築・履行の状況の監視義務、
④上場会社全体を襲ってきた、連年続く品質データねつ造事件の波、波、波を断つための対処方法の策定と実行の必要性
をいう。
(2) 経営陣と一緒になって、グローバル競争世界における自社の進むべき道を探り、研究していくこと
マスコミ報道によれば、
➀2022年に上場会社400社を対象に調査した結果、その46%が、会社内に「ESG推進委員会」を設置しているとのこと、
②2023年6月に公開されることになる23年3月期の有価証券報告書で開示される予定の「サステナビリティ情報」の中でこれに関する情報も盛り込まれるであろうこと、
③これらの委員会の委員に社外取締役が積極的に参加してきていること、
④その会社群の中には、社外取締役と社外監査役の全員が委員となり、年3回以上の頻度で委員会を開催している会社もあること、
などが報じられていることから、このことは、喫緊、重要かつ会社の進路を決する重大事というべきことである。
以上であるから、これなど社外取締役の知恵・才幹の発揮が、最も強く期待されるものである。
(3)自社の株が買収対象になりTOB(公開買付け)開始の通知を受けたときに設置される特別委員会の委員になること。
特別委員会では、特に次の4点を考えること
① TOBに合理性はあるか? →
a)自社が買収された後、企業価値は増大するのか?
b)ハゲタカ・ファンドに買収され、解体され、屍肉として貪られるのか?
は重要な判断事項。
もし、TOBをかけてきた会社が、b)のような会社なら、2007年にブルドックソースがしたように、買収防衛策を講ずる必要があるであろう。
なお、この事件の経過、内容、ブルドック側を勝訴させた理由は、最高裁判所平成19年8月7日決定に詳しく書かれている。
② 買収対価は確実に支払われるのか?
買収対価の多様性を名目に、買収対価として、資力の分からない会社の株式と交換させられるような申し出ならTOBは拒否すること。
⓷ 少数株主の利益を守れるか?
TOBが成立すると、それに応じない株主も、別の制度でスクイーズアウト〈株式の強制買い上げで株主でなくなる制度)されるのだから、買収された後の会社の業績の向上やその縁由となるものをよく吟味・検討してTOBに応ずるとした場合の株価を査定すること。
④ 買収側が約束したものについて、どう担保させるのか?
(4)取締役会出席
社外取締役が、取締役会に出席することは、本質的な義務だが、実は、この義務こそ、問題がおおありである。
それは、取締役会において審議する対象のものが、会社の機関設計で大きく異なるからである。
すなわち、指名委員会等設置会社の場合は、経営と監督が制度的に分離されているので、次のa)のみを対象に審議するが、その他の機関設計の会社(監査役会設置会社と監査等委員会設置会社)の場合は、a)もb)も、審議対象にするからである。
a)法令用語でいう「経営の基本方針の決定」
b)法令用語でいう「重要な財産の処分及び譲受け・多額の借財・支配人その他の重要な使用人の選任及び解任・支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」などなどである。
なお、機関設計の違いによる社外取締役のあり方の違いは、次回のコラムで解説することとする。
二 ここまでで見えてきた、社外取締役のあるべき姿
それは、一に書いた、社外取締役のなすべき職務を忠実に果たせるだけの知恵(職務を遂行する中で磨かれてくる知恵を含む。)を持ち、会社の未来の姿を常に追い求め、会社を成長・発展させたいと意欲を燃やせる人物の姿である。
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