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23 日本の上場会社は社外取締役の働かせ方を知らないのではないか ?

2023年4月18日 公開 / 2023年4月20日更新

テーマ:コーポレートガバナンス改革

コラムカテゴリ:法律関連

23 日本の上場会社は、社外取締役の働かせ方を知らないのではないのか ?

(1) 中国でも
中国でも、2023年4月14日に、政府が、香港市場に上場した会社に対し、社外取締役の割合を3分の1以上に増やすよう勧奨したことがマスコミで報道された。
無論、上場会社のコーポレートガバナンス(企業統治)を改善・強化し、投資家が安心して上場会社の株式取引をなし得る環境をつくるためだ。

その点においては、日本の場合、東証プライム市場に上場している会社の90%超が、独立取締役率3分の1以上を達成しているので、コーポレートガバナンス改革は日本の方が中国より進化している。・・・・・かのように見える。

では、何故、日本の大企業、東証プライム市場に上場している会社が、こうまで連年多数、品質検査データの偽装や改ざんをし続けるのか?
ここに大きな疑問が湧く。
疑問が湧くと、次の疑問が沸いて出た。一波万波呼ぶがごとしだ。
その疑問とは、日本の上場会社は、社外取締役の使い方、言い方が悪ければ働かせ方を、知らないのではないかという疑問だ。

(2) 社外取締役の職務を誤解しているのか?
 社外取締役には、職務執行の権限はない。
だから、上場会社は、社外取締役を働かせないのか?
だから、上場会社は、社外取締役をお客様扱いにしているのか?
だから、上場会社は、社外取締役の前に萎縮してしまっているのか?
だから、上場会社は、社外取締役を有名人や女優などの中から選んでいるのか?
 そうだとすると、それは大いなる誤解だ。
 社外取締役適格者には、能力があり、経綸があり、日本の30年に及ぶ産業競争力の低下を憂い、日本経済の進化発展を心から祈り、力の及ぶ範囲のことは何でもするくらいの気概を持った人材がふさわしく、そんな人材は無数にいるのだ。
上場会社トップは、才能があり働く意欲のある社外取締役を働かせていない。
そんな感がある。

(3)取締役会の義務と社外取締役の義務
2000年(平成12年)9月20日、大阪地方裁判所は、次の判決を言い渡した。
すなわち、
「健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスク、例えば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから、会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。この意味において、取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負う・・・(以下略)・・・」
というものである。

 この判決は、日本の裁判史上、「大和銀行ニューヨーク支店事件判決」と言われる有名な判決である。
 この判決を受けて会社法(当時は「商法」)上に、この義務が規定されたからである。
 なお、その後、子会社の業務についてまでこの義務の範囲が広げられた。
また、医療法人、地方自治法など他の法律にも、この義務規定が設けられた。

この判決およびその後の会社法上の規定により、株式会社の業務を担当しない取締役(社外取締役は当然それに含まれる)は、「取締役会の構成員として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い」、かつ「代表取締役及び業務担当取締役(注:指名委員会等設置会社の場合は執行役)がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負う」ことが明確にされたのである。

したがって、上場会社は、社外取締役に、危機管理システムの整備状況のチェックと改善の提言という仕事を担わせることができる、というより、それをさせなければならいのである。会社法348条の2に基づき取締役会の決議を経る必要はあるが。

 (4) 日野自動車の事件で思うこと
 もし、日野自動車が、社外取締役に、危機管理システムの整備状況のチェックと改善の提言という仕事を担わせ、その社外取締役が、1日現場を見、従業員から十分な事情聴取をしておれば、同社のしてきた長年にわたる排ガスデータねつ造事件(2022年発覚)など、まだ早いうちに発見でき、被害を最小限に止め得たであろう。
 この事件の隠れた真相は、読売新聞の精力的かつ熱心な取材による報道で明らかになったが、日野自動車では、誰にでも分かるような方法、すなわち、データねつ造の現場になったパワートレーン実験部が、その関係者以外には内容が見えないブラックボックスと化していたこと、その実験部に対し、実験部の仕事をチェックさせる(利益相反行為)仕事までさせていたことは、特に優秀でなくとも、社外取締役なら誰であっても、簡単に分かったであろう。

(5) 日本の現状
 日本の現状は、世界的に、社外取締役の重要性が強調されているこの時期(中国も社外取締役の重要性を認識し、香港市場に上場した会社に、社外取締役の増員を勧奨したこと前述のとおりだ。)に、社外取締役に仕事をさせないことをもって、上場会社の仕事と考えているのか、と思ったりする。
 黒船が黒煙を吐き、ドラを叩きながらそこまできているのに、太平の夢から覚めないのが現在の上場会社のトップなのか?
 そうではあるまい。

社外取締役であって、日本の産業競争力を取り戻したいと考えている人物はゴマンといるはずだ。
彼らは、意義ある仕事をしたいのである。
生きていることを実感できる仕事をしたいのである。
取締役会に出席して3時間も、理解できないことも多々ある会議の中で欠伸をかみ殺しながら、時間の経つのをただ待つ人生には飽き飽きしているのである。
要は、上場会社は、社外取締役に、その者が活き活きと輝ける仕事を与えるべきなのである。
そのためにまずすべきことは、社外取締役に上場会社の危機管理システムの整備状況をチェックさせ、改善の提案をさせることだ。
それがうまくいった実感を持てば、後は一瀉千里だ。
いくらでも社外取締役のする仕事は生まれてくるであろう。
有名人や女優を社外取締役にする前に、今いる社外取締役を働かせるのだ。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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