第2章の1 危機管理 リスク管理システムとリスク・マネジメント
企業法務の立ち位置と弁護士の役割
1.コンサルタントの有用性と弁護士業務との類似性
コンサルタントとは、コンサルティング(consulting:語意は「相談」。「顧問」と訳されることもある)をする者。
コンサルティングとは、専門家の立場から相談にのったり指導したりすることなどと訳されているが、現在において、コンサルティングは、極めて有用なサービス(役務)である。
すなわち、近時、企業経営は、同業他社との差別化を図った、中核的業務に特化・傾注する傾向があり、その結果、専門的とはいえない分野の事務や業務などは、専門的な知見を豊富に持ったコンサルタント会社(以下「コンサル会社」という。)に任せた方が効率的になってきたからである。
例えば、
①M&A(企業の買収・合併)は、その知見のない企業にとっては、何をしていいやら分からない事務になることから、M&Aを専門にするコンサル会社に相談するのが、成功への近道になるであろう。
②デジタル人材を育成したい企業の場合もしかり。
③脱炭素を代表格としたESG投資など、時代が求める経営課題に取り組もうとする企業の場合もしかり。
④危機管理システムの構築を一から考えている企業の場合もしかり。
⑤初めて海外への出店などをしたいと思う企業の場合もしかりである。
コンサル会社が、このような顧客のニーズに、的確に応えるだけの知見と組織と研鑽体制、それに組織的な情報収集力をもっている限り、その有用性は、強まることはあっても、弱まることはないであろう。
弁護士業務も、一つのコンサル業務
そのような意味で言うと、弁護士も、法律の専門家として、企業や個人から広く相談(コンサルティング)を求められる存在であるところから、弁護士業務も一つのコンサルタントである。
ゆえに、コンサル会社の有用性が高まってきている現在、弁護士に対するコンサルティング(法律相談ないし法律顧問)へのニーズも高まってきており、これからもそのニーズは、質量とも増えていくであろう。
2.弁護士業務とコンサル業務の違い
ただ、当然のことながら、弁護士業務とコンサル会社がする業務は異なる。
扱う業務がM&Aである場合を例にとると、次のような違いがある。
弁護士業務として、通常する内容
M&Aに関する法令調査[、方法論の決定と法的手続の履践、法務デューデリジェンス(危険性調査)など
コンサル会社の場合
産業・企業・経済情報の収集・蓄積、M&A対象企業の発掘・紹介(マッチング)など
要は“餅は餅屋”であり、弁護士もコンサル会社も、それぞれ独自の専門領域をもって業務に励んでいるのである。
その他の業種の企業もすべて、中核的業務を磨き、他社との差別化を図っていく点では、同じであり、そのダイナミズムが経済を発展させるものだと思われる。