コラム
第1章の5-2 企業内研修の要あり
2022年10月24日 公開 / 2022年10月26日更新
(2)敷地の二重使用問題と企業内研修の必要性
平成18年6月12日最高裁判所判決の事件は、次のものであった。
事実関係
ア)土地の一部Bを売って残った土地Aに建物を建てる計画
土地(AとB)の所有者(甲)は、建築会社(乙)と銀行(丙)の勧めにより、土地Bを売却し、その代金と銀行からの融資金で土地A上に建物を建築し、その建物から得られる賃料収入を銀行への借入金の返済等に充てる計画をたて、土地A上に建物を建築した。
イ)敷地の二重使用が判明
しかしながら、この建物は、容積率の関係からAとB全部を敷地として建築確認を得たため、その後土地Bを他の者に売ると、Bを買った者はBを敷地としてその上に建物を建築することが法律上できないことが判明した。
法律上「敷地の二重使用」は許されないからである。
ウ)紛争ぼっ発
そのため、結局のところ、土地の所有者甲は、A土地上に建物を建築したものの、予定していた土地Bが売却できず、銀行への融資金の返済ができなくなった。
そこで、甲は、「敷地の二重使用問題」についての説明義務違反を理由に、乙と丙に対し、損害賠償の請求をした。
最高裁判所の判断
この事件で、平成18年6月12日最高裁判所判決は、
乙の責任については、
売却予定地Bを売却する場合には、買主がこれを敷地として建物を建築する際、敷地の二重使用となって建築確認を直ちには受けられない可能性があったこと、そうなると、Bを売却することはもともと困難であったこと、このことは、甲と乙との契約及び甲と丙との融資契約を締結するに当たり、極めて重要な考慮要素となること、したがって、乙の担当者には、建築計画を提案するに際し、甲に対して敷地問題とこれによる売却予定地の価格低下を説明すべき信義則上の義務があったこと、しかるに、乙の担当者は、敷地問題を認識していたにもかかわらず、売却予定地は、売却後に建物が建築される際、建築主事が敷地の二重使用に気付かなければ建物の建築に支障はないなどとして、本件敷地問題について建築基準法の趣旨に反する判断をし、甲に対し、敷地問題について何ら説明することなく、計画を甲に提案したのであるから、乙の担当者の行為は、上記説明義務に違反し、甲に生じた損害について賠償すべき責任を負う と判示した。
丙の責任については、一般に、銀行担当者には、返済計画の内容である土地の売却の可能性について調査した上で甲に説明すべき義務が当然にあるわけではないが、銀行担当者が売却予定地の売却について銀行も取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べるなど特段の事情が認められるのであれば、以上の敷地問題を甲に説明すべき信義則上の義務を肯認する余地があるので、その点を審理するため、原審に差し戻す、と判示した。
これを受けて、差し戻し審の大阪高等裁判所平成19年9月27日第12民事部判決は、銀行の説明義務違反も認め、乙と丙に対し甲へ4500万円を連帯して支払うよう命じた。
これにより、建設会社(乙)も銀行(丙)も、法の軽視には、責任が伴うことが分かったと思うが、企業法務に携わる人たちは、業務に関する法の知識は必須である。
そのため、日常の企業内研修を強化するべきだと思う。
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