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1.セクハラと降格処分と減給について

2023年1月12日 公開 / 2023年1月13日更新

テーマ:企業法務の勘所

コラムカテゴリ:法律関連

(1)懲戒処分と降格処分は両立可能
最高裁平成27年2月26日判決は、「懲戒処分を受けた従業員を降格処分にすることができる。」との就業規則の有効性が争われた事件で、

(会社が)懲戒処分を受けた(従業員につき、懲戒処分を受けたことを)独立の降格事由として定めている・・・趣旨は,・・・(会社の)秩序や規律の保持それ自体のため・・・と解され(るので)、現に非違行為の事実が存在し懲戒処分が有効である限り、(降格処分ができるという)定めは合理性を有するもの(したがって、降格処分は有効)ということができる。
と判示し、会社の課長補佐男性2人が、複数回にわたって、女性従業員2名に対し、卑猥な言葉を用いて話しかけたことを理由に懲戒処分(出勤停止処分)にし、その上で当該2人の従業員に対し、その懲戒処分を受けたことを理由に降格にしたことを有効だと判示した。

つまり、懲戒処分(この件では出勤停止)と降格処分は二項対立の関係にあるのではなく、いずれの処分も可能である。

(2)降格の理由としての「分限規定」
国家公務員法の第6節は「分限、懲戒及び保障」を定めた規定が複数用意されている。別に地方公務員法第5節にも同趣旨の規定がある。
これらの法律(以下「公務員法」という。)にいう「分限」とは、「身分保障の限界」という語からつくられた言わば造語的な用語であり、その由来は戦前にあった「文官分限令」であるので、公務員法には、その名残りからか後述の「分限処分」に関する規定があるが、民間の雇用契約に関する労働基準法や労働契約法には「分限処分」に関する規定はない。

「分限」の中味は、「職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。」(国家公務員の場合)というものである。

しかし、公務員に一定の事由があるときは、その職員の意に反して降任、免職、休職等の処分をすることができる。
これらの処分を「分限処分」という。
ここでいう「降任」は「降格」と、また、「免職」は「解雇」と同義語だ。

なお、これら分限処分の中味を見ると、①勤務務実績がよくない場合、②心身の故障のため職務の遂行に支障があ(る)・・・場合、③その職に必要な適格性を欠く場合、④・・・廃職又は過員を生じた場合であり、要は、当該従業員に帰責事由のない場合である。なお、④は民間企業では「整理解雇」と言われるものだ。

だから、セクハラをした従業員には、制裁としての懲戒処分を科する以外に、セクハラをした職場で従前の職務を行う能力なしと見切ったときは、前記最高裁判決が言うように、会社秩序や規律の保持を保つため、降格もなしうるのである。

この理は、民間企業の従業員にも認められるので、就業規則に規定を置けば、従業員に能力不足などがあるときは、降格、場合によっては解雇が可能になる。


(3)降格させられた従業員は減給になるが、これは当然視されていること
 東京地裁平成26年1月14日判決は、会社の業務全般を統括するジェネラルマネージャー(GM)の地位にあった従業員を、セクハラを理由に平のマネージャーに降格した結果、平のマネージャーに適用される給与基準の最下位の給与しか得られない結果になり月額給与が22万円も減額になった者につき、これはやむを得ないものと判示した。

一般に学説(菅野和夫著「労働法」第9版)も降格処分の結果,賃金が低下することを当然のこととみている。
従業員には、能力に応じて働き、働きに応じて給与基準が決まる給与(これを「職能給」という。)が支払われるので、能力不足に陥ると減給もやむを得ないことになるのである。

(4)降格ではなく、休職または退職を命ずる必要が生ずる場合もあること
労働安全衛生法やその施行規則には、「事業者は,心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者については、その就業を禁止しなければならない」(そうなると、軽くても休職、場合によっては退職を命じざるえないことになる。)などいう規定も置かれているのだ

(もっとも、そのような従業員に不利な認定は、「あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない」(規則61条2項)との規定に縛られるが)。
ちなみに、2023年1月12日付けの山陽新聞が報ずるところでは、「心の故障」のため2021年度に分限処分を受けた地方公務員の数は3万1521人(前年度比3177人増)で、内訳は休職が3万1456人、降任が37人、免職が28人であったとのこと。万やむを得ない分限処分であったのだろう。一日も早いご回復を祈る。
(4)適切な判断
企業法務を考える企業人は、適切かつ妥当な労務対策が期待されているのである。

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この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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