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第1章の5-3 路線価認めず、時価で評価した最高裁判決

菊池捷男

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テーマ:企業法務の勘所

(3) 重要判例は記録し、記憶しておくこと

― 路線価認めず、時価で評価した最高裁判決 ―

 不動産が相続された場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されるのが、いわゆる評価通達(財産評価基本通達)の教えるところであるが、最高裁判所第三小法廷令和4年4月19日判決は、この事件ではこれを否定し、相続財産の評価は鑑定評価額で評価するべきだと判示した。

 そのため、この判決は、相続税対策を考える人や、相続税対策のために融資をする金融機関や、相続税対策として不動産を販売する事業者等に、甚大な衝撃を与えることになった。

この事件の事実経過は、
①被相続人が、91歳の年、銀行から合計約10円の融資を受け、複数の不動産を13.5億円で購入した。
②その3年後相続が開始し、相続人から、いわゆる「評価通達」で計算した相続財産の課税価格の合計額を2826万1000円、ここから基礎控除をした後の相続税の総額を0円になるとの相続税の申告がなされた。
③これに対し、所轄税務署長は、この相続税対策スキームを認めず、不動産鑑定士に相続財産の評価をさせた。
④不動産鑑定士は、その後、不動産鑑定評価基準により鑑定評価額を算出した。
⑤所轄税務署長は、鑑定評価額に基づき、本件相続に係る課税価格の合計額を8億8874万9000円、相続税の総額を2億4049万8600円とする賦課決定処分をした。
⑥そこで、相続人は、税務署長のした処分の取消訴訟を提起した。 
 理由は、他の相続事案では、相続財産の評価は評価通達によって評価されたものでよいとされているのに、本件だけ、それを上回る評価がなされているのは平等原則に反する、というものであった。
⑦ これに対し最高裁判決は、次のとおり判示した。

「 本件購入・借入れ(筆者注:銀行から融資を受けて不動産を購入する従来型の相続税対策スキームに倣ってした、不動産購入及び銀行借入れのこと)が行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきである・・・。したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。」

と判示し、所轄税務署長の課税処分を有効なものとしたのである。
なお、この判決は、相続税対策としてする、銀行融資を原資とする不動産の購入はリスク要因になることを告げたと言いうる。

銀行業を営む法人に限らず、事業法人は、自社の業務に関する法律問題に関連する最高裁判決は、記録し記憶していく必要があると考える。

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菊池捷男
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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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