マイベストプロ岡山

コラム

優越的地位の濫用の要件

2019年4月3日

テーマ:会社関係法

コラムカテゴリ:法律関連

1, 独禁法の目的と優越的地位の濫用の位置づけ
独禁法の目的の一つに、「私的独占」、「不当な取引制限」及び「不公正な取引方法」の禁止があります(独禁法1条)。

「優越的地位の濫用の濫用」が禁止されるのは、それが独禁法が禁止した「不公正な取引方法」の一つとされているからです。(なお、独禁法19条は「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と規定しているところです。)。
 すなわち、独禁法2条9項には1号から6号まで「不公正な取引方法」が列挙されていますが、第5号と6号に「優越的地位の濫用」が規定されているのです。

(1)独禁法2条9項5号行為
 同号には、「5号 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

(2)独禁法2条9項6号行為
 同号には、「前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
ロ 不当な対価をもつて取引すること。
ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

2, 独禁法2条9項5号の優越的地位の濫用行為と同項6号の優越的地位の濫用行為の違い
 5号行為は、それ自体が有益的地位の濫用になるが、同項6号の行為は、公取委の指定がある行為になります。
これらの関係については、公取委がホームページで開いている「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ7を読めばよく分かります。

Q7 不公正な取引方法に該当する行為とはどのようなものですか。
A. 不公正な取引方法は,1.独占禁止法第2条第9項第1号から第5号に定められた行為のほか,2.同項第6号イからヘに定められた類型のいずれかに該当する行為であって,「公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち,公正取引委員会が指定するものをいう。」と規定されているところです。

3,6号の行為のうち公正取引委員会が指定するもの
これには、全ての業種に適用される「一般指定」と,特定の業種等に適用される「特殊指定」とがあります。
現在,特殊指定として,①新聞業に対する指定,②特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の指定及び③大規模小売業者による納入業者との取引に関する指定があります。次の項で、次のそのうちの一つについて紹介します。

4,大規模小売業者による納入業者との取引に関する指定(特殊指定の一つ)
これは下記の指定です。

大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(平成17年5月13日公正取引委員会告示第11号)から。

(1)不当な返品
 大規模小売業者が、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、自己又はその加盟者(以下「自己等」という。)が納入業者から購入した商品の全部又は一部を当該納入業者に対して返品すること(購入契約を委託販売契約に切り替えて返品すること、他の商品と取り替えること等、実質的に購入した商品の返品となる行為を含む。以下同じ。)。
 一 納入業者の責めに帰すべき事由により、当該商品を受領した日から相当の期間内に、当該事由を勘案して相当と認められる数量の範囲内で返品する場合
 二 商品の購入に当たって納入業者との合意により返品の条件を定め、その条件に従って返品する場合(当該商品について、その受領の日から一定の期間内における一定の数量の範囲内での返品又は受領した商品の総量に対して一定の数量の範囲内での返品が、大規模小売業者と納入業者との取引以外の一般の卸売取引において正常な商慣習となっており、かつ、当該商慣習の範囲内で返品の条件を定める場合に限る。)
 三 あらかじめ納入業者の同意を得て、かつ、商品の返品によって当該納入業者に通常生ずべき損失を大規模小売業者が負担する場合
 四 納入業者から商品の返品を受けたい旨の申出があり、かつ、当該納入業者が当該商品を処分することが当該納入業者の直接の利益となる場合

(2)不当な値引き
 大規模小売業者が、自己等が納入業者から商品を購入した後において、当該商品の納入価格の値引きを当該納入業者にさせること。ただし、当該納入業者の責めに帰すべき事由により、当該商品を受領した日から相当の期間内に、当該事由を勘案して相当と認められる金額の範囲内で納入価格の値引きをさせる場合を除く。

(3)不当な委託販売取引
 大規模小売業者が、大規模小売業者と納入業者との取引以外の一般の委託販売取引における正常な商慣習に照らして納入業者に著しく不利益となるような条件をもって、当該納入業者に自己等と委託販売取引をさせること。

(4)特売商品等の買いたたき
 大規模小売業者が、自己等が特売等の用に供する特定の商品について、当該商品と同種の商品に係る自己等への通常の納入価格に比べて著しく低い価格を定め、当該価格をもって納入業者に納入させること。

(5)特別注文品の受領拒否
 大規模小売業者が、納入業者に対してあらかじめ特別の規格、意匠、型式等を指示して特定の商品を納入させることを契約した後において、当該納入業者の責めに帰すべき事由がないのに、当該商品の全部又は一部の受領を拒むこと。ただし、あらかじめ納入業者の同意を得て、かつ、商品の受領を拒むことによって当該納入業者に通常生ずべき損失を当該大規模小売業者が負担する場合を除く。

(6)押し付け販売等
 大規模小売業者が、正当な理由がある場合を除き、納入業者に自己の指定する商品を購入させ、又は役務を利用させること。

(7)納入業者の従業員等の不当使用等
 大規模小売業者が、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、自己等の業務に従事させるため、納入業者にその従業員等を派遣させ、又はこれに代えて自己等が雇用する従業員等の人件費を納入業者に負担させること。
一 あらかじめ納入業者の同意を得て、その従業員等を当該納入業者の納入に係る商品の販売業務(その従業員等が大規模小売業者の店舗に常駐している場合にあっては、当該商品の販売業務及び棚卸業務)のみに従事させる場合(その従業員等が有する販売に関する技術又は能力が当該業務に有効に活用されることにより、当該納入業者の直接の利益となる場合に限る。)
二 派遣を受ける従業員等の業務内容、労働時間、派遣期間等の派遣の条件についてあらかじめ納入業者と合意し、かつ、その従業員等の派遣のために通常必要な費用を大規模小売業者が負担する場合

(8) 不当な経済上の利益の収受等
 前項に規定するもののほか、大規模小売業者が、自己等のために、納入業者に本来当該納入業者が提供する必要のない金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、又は当該納入業者が得る利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えて金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

(9)要求拒否の場合の不利益な取扱い
 納入業者が前各項に規定する行為に係る要求に応じないことを理由として、大規模小売業者が、当該納入業者に対して代金の支払を遅らせ、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

(10)公正取引委員会への報告に対する不利益な取扱い
 大規模小売業者が前各項に規定する行為をした場合又は当該行為をしている場合に、納入業者が公正取引委員会に対しその事実を知らせ、又は知らせようとしたことを理由として、当該大規模小売業者が、当該納入業者に対して代金の支払を遅らせ、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

備考
1 この告示において「大規模小売業者」とは、一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者(特定連鎖化事業(中小小売商業振興法第十一条第一項に規定する特定連鎖化事業をいう。以下同じ。)を行う者を含む。)であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 前事業年度における売上高(特定連鎖化事業を行う者にあっては、当該特定連鎖化事業に加盟する者の売上高を含む。)が百億円以上である者
二 次に掲げるいずれかの店舗を有する者
イ 東京都の特別区の存する区域及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市の区域内にあっては、店舗面積(小売業を行うための店舗の用に供される床面積をいう。以下同じ。)が三千平方メートル以上の店舗
ロ イに掲げる市以外の市及び町村の区域内にあっては、店舗面積が千五百平方メートル以上の店舗
2 この告示において「加盟者」とは、大規模小売業者が行う特定連鎖化事業に加盟する者をいう。
3 この告示において「納入業者」とは、大規模小売業者又はその加盟者が自ら販売し、又は委託を受けて販売する商品を当該大規模小売業者又は当該加盟者に納入する事業者(その取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っていないと認められる者を除く。)をいう。
附則
1 この告示は、平成十七年十一月一日から施行する。
2 百貨店業における特定の不公正な取引方法(昭和二十九年公正取引委員会告示第七号。以下「旧告示」という。)は、廃止する。
3 旧告示備考第一項に規定する百貨店業者のこの告示の施行前にした行為については、なお従前の例による。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

Share

関連するコラム

菊池捷男プロのコンテンツ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ岡山
  3. 岡山の法律関連
  4. 岡山の遺産相続
  5. 菊池捷男
  6. コラム一覧
  7. 優越的地位の濫用の要件

© My Best Pro