コラム
売買契約1 思想の転換 → 「瑕疵」が消え、「契約不適合」が生まれる
2018年8月28日
1 旧法下の思想
民法が制定されて以来120年間、人の口に膾炙(かいしゃ・噛みしめられ)てきた「瑕疵」という言葉が消えました。
「瑕疵」とは、小さなキズという意味の言葉です。「瑕瑾」と同じ意味です。
旧法時代は、契約が約束された内容のとおりに履行されなかった場合、その状態を「瑕疵」という言葉で表し、その瑕疵の大小を見て、買主にどのような権利を認めるかという判断権を、裁判所に与えていました。
例えば、自殺の履歴のある中古マンションを、それと知らずに買主が買ったという売買契約の例でいいますと、裁判所は、自殺の履歴を瑕疵ととらえ、それを理由に買主に損害賠償請求権を認めてきました。
しかし、買主からの売買契約解除権までは認めてはいませんでした。
「瑕疵」論は、買主に納得できるものなのか?
自殺の履歴のあるマンションを購入した人は、裁判所が設けた基準によって、一定の金銭の支払を受けはするが、そのマンションに住み続けなければなりませんが(それが嫌で他に売却すると結果的に当初の売買代金の回収は困難)、この結果に納得できるでしょうか?
ここに「瑕疵」論の欠陥があるように思えます。
2 新法下の思想
新法では、「瑕疵」という用語を使わず、「契約の内容に適合していないもの」という用語に変えました。
この言葉は、裁判所目線の、というか客観的というか、当事者の意思を離れた「瑕疵」論より一歩進んだ、当事者の意思の尊重のニュアンスが伝わる言葉になっております。
いずれにせよ、改正法(新法)施行後は、契約書で約束する内容が、大きな意味を持つ時代になるということです。
先ほどの自殺という履歴のある中古マンションの売買契約を例に引きますと、売買契約書の書きよういかんによっては、売買契約の解除は認められると思われます。
すなわち、例えば、売買契約書の保証条項の一として、「自殺物件ではないこと」を書き加え、解除条の中に、保証条項の一つにでも違反したときは、売買契約を解除できると書くような場合です。
この条項なら、契約書上、自殺物件であることが分かったときは、買主において売買契約を解除することができることになりますので、旧法時代のような、自殺別件と分かっても解除はできないという判決は書けないことになるからです。
3 旧法の「瑕疵」論から新法の「契約不適合」論への変化を一言
でいうと
これは、裁判所目線の価値観から、契約当事者目線の価値観への変化になると思われます。
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