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改正法の下では、特別損害の範囲が変わる 主観から客観へ

2017年6月8日

テーマ:債権法改正と契約実務

コラムカテゴリ:法律関連

1 主観を基準にした損害賠償の範囲 → 客観(規範的意味)を基準にした損害賠償の範囲へ

 現行の民法は、416条は1項で、「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」と規定し、2項で、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」と規定しています。1項は通常損害、2項は特別損害を定めた規定です。

 改正民法は、1項はそのままにし、2項を、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」と改めました。

 この改正は、法が主観に重きを置いていたものを、客観に重きを置くことに変更したことを意味しています。
 すなわち、主観である「当事者が予見し、又は予見することができた損害」について賠償を認める時代から、規範的・客観的判断によって、「当事者がその事情を予見すべきであった損害」について賠償を認めると時代に変わるということです。

 その効果は、訴訟の時間を短縮させる点にあります。
当事者の主観によって損害賠償の範囲が異なる現行法の下では、当事者の主観は、取引ごとに違いますので、その有無を争点にすれば、いたずらに訴訟に時間をかけることになりますが、裁判所が、規範的・客観的にみて「当事者がその事情を予見すべきであった損害」について賠償を認めるということになれば、裁判所は、規範的な判断基準を物差しとして、損害賠償範囲を認定できることになりますので、訴訟という紛争解決が、ずいぶん速くなるでしょう。

具体的な例を挙げましょう。
 買主が、転売利益を得る目的で、ある美術品を買う契約を結んだものの、その美術品が売主の過失で壊れてしまい、買主はこの美術品を入手できず、転売利益を得ることができなくなったとします。
 この場合、買主は、売主に対し、転売利益について損害賠償請求できるでしょうか?
 
 現行法の下では、買主の売買契約の目的が転売であることを、売主が「予見し、又は予見することができた」ものなら、転売利益につき損害賠償請求ができますので、裁判になりますと、売主が「予見し、又は予見することができた」かどうかが争点になり、訴訟に時間がかかることになります。
 しかしながら、改正法の下では、売主の主観を問うことなく、客観的・規範的意味で、売主が「予見すべきであった」ものと判断されるときは、転売利益につき損害賠償請求ができることになり、逆に、客観的・規範的意味で、「予見すべきもの」ではなかったとされるときは、転売利益につき損害賠償請求はできないことになりますので、裁判所は、買主が古物商であれば、売主は買主の転売目的を「予見すべきもの」であった、逆に、買主が消費者であれば、買主の転売目的は「予見すべきもの」ではなかったという、規範的な線引きをし、判決を書くことが可能になります。

世はまさにスピードの時代。悠長な主観の世界に耽溺(裁判所での審理)できない、という時代が到来するのです。

2 契約実務も変化させるべし
現在の取引契約の多くで、法律の条文の丸写しで良しとする姿勢が見られます。
「当事者は、故意又は過失により本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合は、その賠償の責めに任ずる。」というような規定です。
しかし、これでは、賠償額について争いが生じます。
これからは、裁判をしない、させない時代として、「売主が、故意又は過失によって、債務の履行ができなくなった場合は、金○○万円を賠償する。」と書くべきでしょう。賠償が遅れた場合の遅延損害金の率(一般的には年14.6パーセントが多い)も定めておくべきでしょう。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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