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コラム

顧客名簿と営業秘密

2017年10月16日

テーマ:会社関係法

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 退職 手続き

Q 当社の営業担当の従業員が、退職後、競争会社に入社し、当社の顧客名簿を利用して、営業活動をしています。なんとか手を打つことはできませんか?

A 貴社の顧客名簿が、不正競争防止法の要件を満たしておれば、可能です。

1 三つの要件
 不正競争防止法2条6項は、この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう、と規定しています。ここから、 秘密管理性、有用性、非公知性の三つの要件を充たす場合は、顧客名簿(顧客の名称、住所、連絡先、過去の取引実績及び支払状況等を書いたもの)は、営業秘密とされますが、電話帳より抜粋した顧客名簿であっても、電話勧誘の際の反応、成約に至る見込みなどを記載したものは、やはり営業秘密になります。

2 秘密管理性
 問題は、3要件のうちの秘密管理性要件を充足しているかどうかです。
アクセス制限をし、かつ、従業員との間に、秘密保持契約を結んであれば、秘密管理性が認められますが、アクセス制限をせず、誰でも入手できる顧客名簿は秘密管理性は認められません。秘密保持契約の締結も必要です。

3 刑事事件になった具体例
 営業秘密を盗用した場合は、刑事制裁が科されるほどの犯罪になりますが、東京地方裁判所立川支部平成28年 3月29日判決(控訴審東京高等裁判所平成29年3月21日判決も)は、刑事事件ですが、勤務先の営業秘密である顧客情報合計約2989万件を自己のスマートフォンに複製し、そのうち1000万件余りを名簿業者に売却して流出させたという不正競争防止法違反の事案において、本件顧客情報を管理する方法が、アクセスできる者を制限し、従業員との間に秘密保持契約を締結するなど、情報の秘密保持のために必要な合理的管理方法をとり、顧客情報にアクセスする者がその情報が管理されている秘密情報であると客観的に認識可能である場合は、秘密管理性の要件を充足していると認定され、実刑判決を受けています。

1 結論
以上の3要件を満たしておれば、貴社は、元従業員に対し、民事事件として損害賠償請求もでき、刑事告訴もできます。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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