コラム
もう一つの、株主でなくなっても取締役等の責任が追及できる制度
2017年9月8日 公開 / 2017年9月20日更新
「のう、後藤よ。カブダイ訴訟、すなわち株主が会社の役員を相手取って責任追及訴訟を起こした後、その株主が、株主の責任でもない理由で、株主でなくなったとして、訴えが却下された事件があったよなあ。」
「東京地方裁判所平成13年 3月29日判決の、興銀事件じゃろう。
あの事件の判決の判示部分は次のとおりだ。すなわち、
『 興銀、株式会社富士銀行及び株式会社第一勧業銀行の持株会社として株式会社みずほホールディングスが、平成一二年九月二九日、共同株式移転の方法によって設立され、原告らはみずほホールディングスの株主となり興銀の株主たる地位を喪失したことは当事者間に争いがない。・・・・・したがって、原告らは、もはや「六月前ヨリ引続キ(興銀の)株式ヲ有スル株主」ではなく、本件株主代表訴訟の原告適格を喪失したと解される。よって、本件訴えは不適法であるから、いずれも却下する 』
というものだったよ。
この判決に対しては控訴もされず確定したよ。」
「このような、株主の責任でもない理由で株主でなくされた場合、カブダイ訴訟が直ちに不適法になるという法理については、批判はなかったのか?」
「批判ふんぷんだったぞ。学説では、いわば会社の都合で強制的に株主の地位を失わされた原告の場合は、訴訟の途中で原告適格は失わないと解すべきであるという見解が強かったんだ。」
「で、その後、なんらかの立法措置がが採られたんかい?」
「採られたねえ。会社法が、851条1項1号で、株主がカブダイ訴訟を提起した後は、株式交換等の組織再編によって株主の地位を失っても、原告適格を失わない(訴訟を追行できる)ものと定めたんだ。」
「では、順序が逆の場合はどうなるんだい。つまり、A社の株主だった者が、株式交換等によって、A社の親会社であるB社の株主になったため、後で、その株主がA社の株主であった時期にA社の取締役に不正行為があったとして、A社の取締役等に対して、責任追及訴訟を起こすということはできるのかい。」
「学説では、できないという見解が多かったが、それもおかしいという見解が多くてなあ、平成26年改正法で特定責任追及の訴え(多重代表訴訟)制度の導入された時に、もう一つの制度が採用されたんだ。これは、株式交換等及び三角合併の効力発生時までに取締役等の責任原因事実が発生している場合は、株式交換等の効力発生日の時点で、株式継続保有要件を満たし、責任追及の訴訟を起こし得た株主(「適格旧株主」という)は、株式交換等および三角合併によって当該会社の株主でなくなっても、取得した完全親会社の株式を保有している限り、完全子会社の取締役等に対して 株主代表訴訟を提起できるように原告適格を拡大したんだよ(847 条の2第9項「旧株主による責任追及等の訴え」)。
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