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カブダイと取締役等の責任軽減措置

菊池捷男

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テーマ:菊池と後藤の会社法

1,カブダイについて
昨日のことである。
後藤紀一が、我が輩に、「菊池よ。お前、カブダイという言葉を知っているか?」と訊く。
「いや、知らん。」と答えると、
「カブダイというのはなあ、株主代表訴訟のことを簡略化した言葉だ。今の会社法でいう「責任追及等の訴え」のことだ。」
「ふ~ん」
「で、のう、お前、この責任追及等の訴えのことは、知ってるじゃあろう。」
「そりゃあ、知っているわな。取締役等会社の役員が、会社に対する善管注意義務(正しくは、善良な管理者としての注意義務)に違反し、会社に損害を生じさせた時は、会社に対して損害賠償責任を負うは当然じゃが、会社が当該取締役等に対して損害賠償請求をするとは限らないので、一定の要件を満たした株主が、当該取締役等に対して、損害賠償請求をする道を開いた制度のことじゃあろう。」
「そのとおりだが、この制度はなあ、昭和25年の旧商法改正の時に(当時、日本はアメリカの占領下にあった)、アメリカのderivative  suitに倣って、導入されたんじゃが、制度はできたが、あまり活用はされなかった。この理由は知っているかのう?」
「たしか、訴額が大きすぎて、訴訟を起こす株主の負担が耐えがたいものであった、ということを耳にしたがのう。」
「そうだ。この株主代表訴訟というのは、株主が会社に代わって会社の損害回復のために行うものであるから、努力して勝訴しても提訴株主にお金が入るわけでない。その上にだ。訴訟にかかる費用は、株主個人が負担しなければならないものであったことから、訴訟を起こすインセンティブが働かないわ。さらには、訴状に貼る印紙代が、訴額にスライドして高くなり、株主の負担ばかりが大きくなるという問題を抱えていたので、あまり活用されなかったんだ。」
「おい、後藤!訴訟費用の問題は、その後解決されたのじゃあなかったのか?」
「そうだ。成5年改正法によって、代表訴訟は、「財産権上の請求でない請求に係る訴え」とみなされ、訴訟費用が一律8200円になり(今日では1万3000円)、また、株主が勝訴した場合には、弁護士報酬その他訴訟に伴う費用については、相当な範囲で会社に請求できることになったわなあ。これ以後、状況が一変した。取締役の不祥事によって会社に損害が発生したことがマスコミ等明らかになった場合には、ほとんどの場合、関与した取締役に対して、株主代表訴訟が提起されるようになったんだ。」

2 取締役等の責任軽減措置
「後藤よ、昨今の新聞報道によれば、会計不祥事など、あまた出てきたが、取締役等の責任額も大きくなるじゃあろうなあ。」
「大和銀行ニューヨーク支店事件(平成7年発覚)があまりにも有名なので、例に引くとなあ、この事件の第1審判決(大阪地裁)は、部下の行った違法行為を見逃した取締役に対し、数百億円の損害賠償を命じたぞ(二審で和解が成立し、損害賠償額は5億円とされたが、それにしても一取締役が5億円もの大金を支払うことになったことは大きい)。その責任原因は、部下のミスを早期に発見すべき内部統制ステムの構築を怠っていたというものだったよ。当該取締役は、そんなこと「知らなかった」と弁解したが、裁判所は、「知らなかった」ことで責任を免れることはできないと判示したわなあ。」
「後藤よ、その件がきっかけになって、何かが変わったという印象があるが、何だったかな?」
「この事件をきっかけになって起こったことの一つは、大会社については、内部統制システムの構築が会社法上義務付けられ、コンプライアンス体制の強化が強く要請されるの至ったことと、他の一つは、経済界からは、“これでは取締役のなり手がいなくなる”という声が上がったことから、平成13年商法改正によって、取締役の責任軽減措置が導入されたことだ。」
「現在の、取締役等の責任限度額をどうなっているんだい。」
「最新のものというと、平成26年会社法改正によるものだが、代表取締役(代表執行役を含む)につき、年収の6倍、業務執行取締役(執行役を含む)につき、4倍、対内的業務執行権のない、いわゆるヒラ取締役,社外取締役,監査役,会計監査人,会計参与については,年収の2倍に軽減されたんだが、ただし、これは、取締役等の責任原因が軽過失による任務懈怠の場合に限られ、かつ、株主総会の特別決議による承認があった場合に限られるがな。」
「う~ん。大会社、特に上場会社の場合、簡単に株主総会など開けやしないと思うが、株主総会の特別決議を得るなど至難なことじゃあないのか?」
「そうだ。そこでだ。定款に定めれば、取締役会の承認によって責任を軽減できる途も開いている(この場合,議決権の3%以上の株主が反対すると,改めて株主総会の承認を得なければならない)。」
「それも厳しい要件ではあるわなあ」
「そう。そのような厳しい問題もあるので、安心して役員に就任できるようにするため,ヒラ取締役,社外取締役,監査役等については,前もって会社と責任限定契約を結ぶことによって,このリスクを避けることができるようにはなっているがな。」

3 他の法律も準用
「のう、後藤よ。このカブダイ制度だが、株式会社だけではないんわな。他の法律で、株式会社法上のこの制度が準用されているわなあ。」
「そうだぞ。中小企業等協同組合法や農業協同組合法などにも、あるぞ。」

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菊池捷男
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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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