遺留分法理③ 遺贈(ここでは相続分の指定)+贈与により侵害された遺留分額の計算法理
最高裁判所平成11年12月16日判決の前段部分は、次のような内容のものです。
「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)・・・が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって,当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。・・・甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは,民法1012条1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり,遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。もっとも,登記実務上,相続させる遺言については不動産登記法27条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから,当該不動産が被相続人名義である限りは,遺言執行者の職務は顕在化せず,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成7年1月24日判決参照)。しかし,本件のように,甲への所有権移転登記がされる前に,他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため,遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には,遺言執行者は,遺言執行の一環として,右の妨害を排除するため,右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ,さらには,甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。」
そして、後段部分は、次のような内容になっています。
「当事者参加人らはそれぞれ被相続人の相続財産について三二分の一の遺留分を有しており、一方、遺言執行者である一審原告は、一審被告利朗に対し、本件一土地について吉野キヨらへの、本件二土地の持分二分の一について一審被告利一への各持分移転登記手続を求めていて、これが遺言の執行に属することは前記のとおりである。そして、一審原告の右請求の成否と当事者参加人らの本件一及び二土地についての遺留分減殺請求の成否とは、表裏の関係にあり、合一確定を要するから、本件一及び二土地について当事者参加人らが遺留分減殺請求に基づき共有持分権の確認を求める訴訟に関しては、遺言執行者である一審原告も当事者適格(被告適格)を有するものと解するのが相当である(これに対し、本件三ないし五土地については、被相続人の新遺言の内容に符合する所有権移転登記が経由されるに至っており、もはや遺言の執行が問題となる余地はないから、一審原告は、右各土地について共有持分権の確認を求める訴訟に関しては被告適格を有しない。)。」
前段の判示部分は、これまで何度か解説したところです。
問題は、後段部分です。
ここから明らかなことは、遺言執行者には、遺言の執行をする余地のない遺産に関しては、遺留分減殺請求を受ける資格はないということです。
遺言執行者を相続人の代理人であると単純に考えて、遺言執行者の遺留分減殺請求をしたから能事足れりと思っていると、遺留分減殺請求権を消滅時効にかけてしまうことになります。
遺言執行者実務では、遺留分権利者から遺言執行者に対して、遺留分減殺請求することがありますが、これは遺留分減殺請求権を時効によって消滅させてしまうリスクが大きいのです。
遺留分減殺請求は、受遺者や受遺相続人にすることが大切です。