立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
2 遺留分減殺請求の結果は、対象になった財産全部につき、共有物共有になる
遺留分減殺請求をすれば、対象になった財産について、遺留分権利者は、侵害された割合分、共有持分権を取得(回復)します。この共有は遺産共有ではなく、共有物共有ですので、不動産についていえば、遺産分割をしなくとも、当然に、その共有割合分の所有権移転登記手続請求ができます。
例えば、
被相続人が遺言書で、全遺産を甲に遺贈した場合(「全遺産を甲に相続させる」と書く遺産分割方法の指定を含む。)で、相続人は他に弟の乙がいるだけという場合で、かつ、甲乙ともに特別受益はないという場合、乙から甲に対し遺留分減殺請求をしたときは、個々の遺産のすべてについて、甲が3/4、乙が1/4の割合で、共有になり、不動産については、甲に対し、1/4につき所有権移転登記手続の請求ができることになるのです。また、対象の財産がすでに第三者に譲渡されているような場合は、その財産の1/4相当額の損害賠償請求ができることになります。
次の判例が、その理を明らかにしています
最高裁平成8年1月26日判決
遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ(最高裁昭和51年8月30日判決)、遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者の意思にゆだね(1031条、1043条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(引用条文略)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。
以上によれば、原審の適法に確定した前記の事実関係の下において、被上告人が本件不動産に有する1/24の共有持分権は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって、被上告人は、上告人に対し、右共有持分権に基づき所有権一部移転登記手続を求めることができ、また、上告人の不法行為によりその持分権を侵害されたのであるから、その持分の価額相当の損害賠償を求めることができる。