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最小限書いておきたい遺言条項②

2017年2月14日

テーマ:相続判例法理

コラムカテゴリ:法律関連

第2 寄与分を認め,一定の財産を与える条項

1 長男は,私の会社の後継者として,よく私を助けてくれ,今日の会社の発展に寄与してくれた。この寄与に対し,遺産の2割を寄与分として別途相続させる。
2 次男は,夫婦でよく,私の介護に尽くしてくれた。その寄与分として,遺産の中から1000万円を与える。


第3 遺産の評価に関する条項
遺産分割の協議や調停の場では,遺産の評価について対立することが多々あります。
極端な言い方をしますと,自分が取得する遺産は低く評価し,対立する相続人が取得する遺産は高く評価したいという心の願望がそのまま,言葉になって出,争いの芽になるのです。
遺産の評価に関して争いが起きると,具体的相続分の算定はできず,遺産分割の話合いは頓挫してしまいます。それを打開するには,遺産の鑑定を専門家に委託するほかないことになりますが,その場合は費用がかかりますので,鑑定の委嘱にも躊躇し,いたずらに,遺産分割が遅れるという事態を招くことにもなるのです。
そこで,遺言書で,この点の紛争だけでも予防したいと思われれば,次のような遺言事項を書くとよいでしょう。
第1条 私は,私の遺産及び生前贈与財産の評価を,相続税評価額によることを条件として,妻や子の相続分を次のとおり指定する。
妻・・・長男・・・長女・・・


第4 葬儀費用及び法要にかかる費用の負担に関する条項
葬儀費用や法要の費用は,付随問題ですが,この問題は、遺産分割を遅らせる原因になっています。これも遺言書の中に書いておくと,その限りにおける紛争の芽を摘み取ることは可能です。
第1条 我が祖先の祭祀の主宰者は,長男凸山一郎と定める。
第2条 一郎は,一郎の費用で私の葬儀及び法要を行うこと。
第3条 私が書く遺産に関する以下の条項は,前2項を考慮した上でのことである。


第5 使途不明金問題
使途不明金とは,被相続人が亡くなった後,被相続人の預貯金を調べたら,被相続人の生前,思いがけない大金が銀行口座から引き出されていることが分かったが,その使途が分からないことから,預金を引き出した相続人又は引き出したであろう相続人が,それを隠している,あるいは,横領している,として提起される問題です。
これも遺産分割を遅れさせる付随問題の一つです。使途不明金は,本来訴訟でないと,裁判所に判断してもらえませんが,現実には,遺産分割の協議や調停の場で持ち出され,それが遺産分割の成立を遅らせることが実に多いのです。
遺言書を書く人は,このような問題の発生も予防したいと思われれば,次のような遺言事項を書いておくとよいでしょう。
第1条 私の死後,私の預貯金を誰がいくら引き出したなどという醜い争いは起こさないこと。もし,子らのうちだれか私の生前に預金を引き出し消費した者があったとしても,それについては,返済義務を免除し,その利益に対しては持戻しを免除する。


第6 財産管理の清算義務の免除条項
この問題も,使途不明金と通底する問題です。老親の世話をし,財産を管理してきた相続人が,親の死後,他の子らから,財産管理の清算を求められるだけでなく,親の財産の一部を取り込んでいるなどと言われ,遺産分割問題を紛糾させることになりがちな問題なのです。
これの対策も,次のような遺言書を書くことで,可能です。
第1条私が,将来,子のうちの誰かの世話になり,その子に私の預貯金の管理させる場合は,その子が私の預貯金の中から支出した金銭については,使途を問わず,私の意思によるものと考えること。
2 その使途がその子のためのものであった場合,その金銭は私からその子に贈与したものと考えること。
3 私はその金額の贈与につき,持戻しを免除する。
別案もあります。
第1条 私が,将来,子のうちの誰かの世話になり,その子に私の預貯金の管理をさせた場合で,その子が私の預貯金の全部又は一部を,私の世話に要する金額を超えて支出したときといえども,その子の置かれた環境その他諸般の事情を考慮して,常識的に許容できる範囲内の金額については,私の意思によるものと考えること。
2 もし,前項でいう,許容できる常識の範囲につき争いが生ずるときは,私の友人凸山一郎の判断に任すことにする。
3 1項によりその子が得た金銭は私からその子に贈与したもの又は私の世話をしてくれた代償と考えること。
4 私はその金額の贈与につき,持戻しを免除する。

第7 遺留分減殺請求に備えた遺言書
生前贈与や遺贈(「相続させる」遺言を含む。)によって,遺留分を有する相続人の遺留分を侵害する場合があります(詳しくは第3章「遺留分」で詳述します。)。
遺留分を侵害した場合は,遺留分権利者から遺留分減殺請求ができますが,これがなされると,減殺対象になった財産全部が,遺留分権利者と受贈者又は受遺者(「相続させる」と書いた遺言の受遺相続人を含む)の共有になります(最高裁平成8.1.26判決)。
 共有になると,煩瑣なことが多いので,これを避ける方法の一つに,遺言者は,遺言書で,「遺留分減殺順位の指定」をすることができることになっています(民法1034条ただし書)。

その文例としては,例えば,
1 私は全財産を長男凸山一郎に相続させる。
2 将来他の相続人から遺留分減殺請求がなされたときは,下記の財産の順番で,遺留分減殺の順位を指定する。
・・・・・
があります。

 ただ,遺留分減殺順位をどう決めてよいか分からない場合もあるでしょう。また,遺留分減殺順位の指定は,遺留分減殺請求を受ける受遺者が指定した方がよい場合が多いでしょう。
そのような場合は,遺言文言を,
1 私は全財産を長男凸山一郎に相続させる。
2 将来他の相続人から遺留分減殺請求がなされたときは,一郎に,遺留分減殺の順位を指定することを委託する。
と書くとよいのです。
 なお,実は,民法には,「遺留分減殺順位の指定」の遺言ができる規定(民法1034条ただし書)はありますが,「遺留分減殺順位の指定の委託」の遺言ができるという規定はありません。
 しかしながら,民法では「遺贈」の遺言はできる規定はあるものの,「遺贈の委託」ができるという規定はないところ,最高裁平成5.1.19判決は,遺贈を受けることになる受遺者の範囲が限定されている場合は,「遺贈の委託」遺言は有効であると判示していますので,「遺留分減殺順位の指定の委託」の遺言も,その相手方が限定されている場合は,可能だと解されます。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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