立法論としての相続法③ 配偶者の居住権の保護
1 包括遺贈の意味
包括遺贈とは、相続財産の全部(「全部包括遺贈」の場合)又は相続財産の一定割合(「割合的包括遺贈」の場合)を、受遺者に与える遺贈です。
これは、特定の相続人に、相続分の全部又は一定割合を与える相続分の指定と似ています。
2 包括遺贈の効果
民法990条には「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と規定されていますので、包括受遺者は、全部包括遺贈の場合、全部の相続財産を取得し、割合的包括遺贈の場合、相続財産を遺贈された割合で相続人と共有して遺産分割手続に入ることになります。
3 包括遺贈で遺言執行を必要とするもの
包括遺贈の場合も、少なくとも、遺贈登記に関しては、遺言執行が必要です。
・広島高等裁判所岡山支部昭和52.7.8決定は、遺言者が、遺産全部をAに遺贈するという遺言を書いて亡くなった後、Aから遺言執行者の選任の申立てをした事件で、原審の岡山家庭裁判所が、全部の財産の包括遺贈の場合、遺言者が死亡すると当時に、遺贈の効力が発生するとともに全遺産は受遺者に移転するから、遺言の執行という観念を容れる余地がない、として、遺言執行者の選任の申立を却下したのに対し、理屈は原審のいうとおりだが、「遺贈による不動産の取得登記は、判決による場合を除き、登記権利者たる受遺者と登記義務者たる相続人又は遺言執行者との共同申請によるべきであるから、右登記義務の履行については、遺言の執行を必要とする」として、遺言執行者選任の申立てを却下した原審判を取り消しました。
・東京地裁平成13.6.26判決は、割合的包括遺贈のケースで、割合的包括遺贈を定めた遺言の効果は、受遺者が相続人と遺産共有関係になったことで実現しており、後は遺産分割の手続が残るだけで、遺言執行者にはこれらの財産を管理の権限はないが、遺言執行者は、不動産の所有権移転登記手続をすることができるだけである、と判示しました。
特定遺贈と包括遺贈に共通する問題として、
受遺者が先に亡くなった場合
遺言の効力が発生したとき、つまりは、遺言者が死亡したとき、受遺者がすでに死亡しておれば、遺贈の効力はありません。民法994条が「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」と規定しているからです。
この規定は、「遺贈は・・・効力を生じない」と定めていますので、同時に、代襲相続的な代襲遺贈も否定しています。
この場合は、民法995条が「遺贈が、その効力を生じないとき・・・は、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定していますので、遺言の効力が生じないと、原則として、財産は相続人に帰属することになります。しかし、民法995条の但し書き、つまり、「ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」との規定によって、別段の意思を遺言に書いておけば、その効力が生じます。
例えば、
「私の財産はすべて、私の甥○山□夫に遺贈する。もし、私が死ぬ前に○山□夫が死亡しているときは、私の財産はすべて、○山□夫の妻である○山△子に遺贈する。」と遺言者を書くと、遺言者が死亡したとき、甥の○山□夫が生きていれば、遺贈財産は○山□夫のものになり、遺言者が死亡したとき、○山□夫が既に死亡しておれば、遺贈財産は、その妻である○山△子のものになります。