遺産分割⑬ 持戻し計算がなされる特別受益の範囲
1 遺産分割の審判や調停手続からの排除
家事事件手続法第43条は「家庭裁判所は、当事者となる資格を有しない者及び当事者である資格を喪失した者を家事審判の手続から排除することができる。」と規定しています。
これが適用できるのは,相続人が相続分の全部を放棄したような場合です。
2,「相続分の放棄」は,「相続放棄」とは違う
「相続放棄」は,相続開始の時から相続人でなかったことになりますが,「相続分の放棄」は,相続人にはなり具体的相続分はあるが,それを放棄することをいいます。
3,遺産分割の審判手続の手続からの排除決定ができる
相続人は,自己の具体的相続分を放棄することはできますが,そうする手続規定はないため,家庭裁判所が,遺産分割の審判をするに当たり,相続人の「相続分の放棄」の意思を慎重に判断し,その認定に至った場合に,前述のような,審判手続から排除する決定をすることになります。
この決定に不服な相続人は,家事事件手続法43条2項「前項の規定による排除の裁判に対しては、即時抗告をすることができる。」に従い,即時抗告ができますが,排除決定が確定すると,具体的相続分はないことになり,遺産分割を受けることはできなくなります。
4 遺産分割の調停手続にも準用
家事事件手続法第258条は,同法43条を準用していますので,家事調停手続においても,相続分を放棄した相続人を,遺産分割調停手続から排除することもできます。
5 遺産分割の調停や審判が円滑に進むことになる。
これまで,このような手続はなかったのですが,家事事件手続法ができてから,この手続が可能になりました。
相続人が,何も,遺産はいらないという場合でも,その相続人が参加しないと,遺産分割の調停も審判もできなかった時代から,遺産を欲しない意思表示をした相続人を,相続分の放棄をしたとの扱いをした上で,遺産分割の手続から排除できることにした,家事事件手続法は,実に合理的で,効率的になったものです。むろん,手続から排除された相続人は,納得できない排除決定を受けた場合は,即時抗告で争うことができますので,相続人の権利を侵害するリスクは極めて少ないということもでき,現在,この制度は,実に有意義な制度になっております。
6 遺産分割協議では,遺産分割協議に参加するか,相続分放棄の証明書に署名押印してもらう(印鑑証明書添付)ことが必要
理由は,遺産分割協議には,手続からの排除という制度はないからです。