改正法の下では、特別損害の範囲が変わる 主観から客観へ
1 特別損害の範囲を主観的基準から客観的基準に
改正後の民法第416条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
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1項は改正なし。2項は,現行法の「予見し、又は予見することができたとき」を「予見すべきであったとき」に改めたもの。これは,損害賠償の対象になる特別損害は,損害賠償をする主人公(債務者)が個人的経験事実として「予見し、又は予見することができた」損害とするのではなく,当該契約関係における当事者なら,当然「予見すべきであった」損害とするもの。債務者の主観ではなく,当事者の立場から規範的な評価ができる損害にするべきだという考えである。
2 過失相殺の対象を損害の拡大部分にまで広げる
改正後の民法第418条 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
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現行法の「債務の不履行に関して」を、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して」に広げ、判例法を明文化したもの。
3 賠償額の予定を裁判所が制限できることにした
民法第420条第 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
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現行法は、これに引き続いて「この場合おいて、裁判所は、その額を増減することはできない。」という 文(後段)を置いているが、改正法は、この後段を削除することにしたもの。実は,現行法の下でも裁判例は、予定された損害賠償額のうち著しく過大と認められる部分を民法90条の公序良俗違反を理由に無効とする実務が定着しているところから、後段を削除したものである。