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債権法改正 「履行の不能」概念について

2015年5月14日

テーマ:債権法改正と契約実務

コラムカテゴリ:法律関連

履行の不能とは,契約で定めた債務の履行が不能である,という意味である。
改正法は,この「履行の不能」について多くの規定を設けることにした。
次のとおりである。

1 履行不能の判断基準
民法第412条の2
 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

コメント
債務の履行が不能であれば、債権者は,その履行を請求することはできない。理の当然のことであるが,これを明文化すると同時に,債務の履行が不能かどうかの判断は、物理的に不能というだけでなく、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになる。ニュアンスとしては,履行不能の認定が広がる感じがあるが,履行不能になっても,債務者の利益になるものではないこと,2以下の規律の内容より明らかである。

 
2 履行の不能は,損害賠償請求権発生の原因事実
民法第415条
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

コメント
 債務の履行が不能のときを、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときと同列に置いて,債務者に損害賠償義務を負わせることにした。ただし,それが債務者の責めに帰することができない事由によるものであることを債務者が立証できたときは、損害賠償義務が免責されることを明示した。

三 履行遅滞中の履行不能
民法第413条の2
 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

コメント 
 債務の履行を遅滞した債務者は,その後の債務の履行が当事者双方の責めに帰することができない事由によって不能になった場合も責任を負わせるという規定である。

四 代償請求権
第422条の2
 債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。

コメント
債務の履行が不能になった債務者が,利益を受けることは,許さないというもの。

五  危険負担
民法第536条は,
(1) 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
(2) 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
と改められることになっている。

コメント
現行法の危険負担債権者主義を定めた民法第534条及び第535条は、理論上も実際上も不当であるとして批判が強かったため、削除されることになり、債務が履行されない危険は債務者が負担するものにしたのである。

以上にように,改正債権法は,履行不能概念を多く使っている。
一口に言うと,履行不能は,広く認めるが,その効果は,債務者に対する損害賠償義務の発生等,債務者に厳しいものになるということである。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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