不動産 オフィスビルの場合は,通常損耗の原状回復義務があるのか?
東京高等裁判所平成15年9月25日判決は,
①売買の目的物に隠れたる瑕疵がある場合,売主は瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を負う。
②瑕疵とは,当該目的物を売買した趣旨に照らし,目的物が通常有すべき品質,性能を有するか否かの観点から判断されるべきである。
③居住用建物の敷地の売買の場合は,その土地が通常有すべき品質,性能とは,基本的には,建物の敷地として,その存立を維持すること,すなわち,崩落,陥没等のおそれがなく,地盤として安定した支持機能を有することにあると解される。
④地盤が低く,降雨等により冠水しやすいというような場所的・環境的要因からくる土地の性状・・・は,周囲の土地の宅地化の程度や,土地の排水事業の進展具合など,当該土地以外の要因に左右されることが多く,日時の経過によって変化し,一定するところがない・・。また,・・冠水被害は,一筆の土地だけに生じるのではなく,附近一帯に生じることが多い・・・冠水被害があることは,価格評価の中で吸収されているのであり,それ自体を独立して,土地の瑕疵であると認めることは困難となる。・・・一定の時期に,冠水被害が生じたことのみをもって直ちに,土地の瑕疵があると断定することは,困難である・・。
と判示した上で,この事件については,
ア ・・建物に床下浸水をもたらす程度にまでは至っておらず,建物敷地としての利用に何らかの具体的支障が生じたなどの事情も窺われない。
イ 水が貯留しやすくなったのは,周辺の土地の区画整理などが進み,保水機能を有する畑などの耕地が減少する一方,それに見合う道路の排水設備が整備されなかったことによるものと考えられる。
ウ 土地の性状は,雨水管や雨水桝の整備などの浸水対策がとられれば,いずれは解消される性質のものである。
エ 本件土地の駐車場部分の冠水が,駐車車両のナンバープレートの下付近まで達したこと等もある。
オ しかし,冠水したときの降雨は,・・・特殊な気象条件下での出来事であって,通常の降雨によるものではない。・・・
カ 冠水による生活上の不便は,・・・本件土地での居住自体を困難とするものではない。
キ 本件土地と同様の冠水被害は,周辺一帯に生じている・・・冠水被害が,土地の価格評価にある程度織り込まれている可能性も否定できないところである。
ケ 本件土地に前記のような冠水被害が生じていた事実は認められるが,これをもって直ちに本件土地に瑕疵があるとして,売主の瑕疵担保責任を認めることは困難であるというほかないものである。
と判示しております。
冠水被害を受けやすい土地であることが宅地の瑕疵になるかという問題についての裁判所の考えが分かる裁判例ですので,参考のため,ご紹介いたします。