使用者のための労働問題 就業規則を変更したときの附則の書き方
東京地判平成2年4月17日は,A進学塾の講師であったBが、就業規則で競業避止義務が定められていたにもかかわらず、年度の途中に代替要員を確保する時間的余裕を与えないまま進学塾の講師の大半を勧誘して退職し、職務上入手していた生徒名簿を利用して生徒を勧誘して、自らが開設した進学塾に入塾させた行為は,「従業員引抜き」「情報利用」となり,競業避止義務に違反すると判示し,Bに対し,(ア)Bの競業避止義務違反によって進学塾をやめた生徒の数 × (イ)夏期講習及び3か月間の授業料に相当する金額 × (ウ)30%(利益率)という計算式による金額の賠償金を支払うことを命じました。
A進学塾が請求した金額に比べずいぶん低い金額ですが,判決は,①進学塾の経営については競争が激しく、長期間にわたって生徒数が安定することを期待し得ない(業界において確固不動の地位を占めているような塾は別として)のでその逸失利益を算定する際には慎重にこれを行うべきであること,➁A進学塾も自ら損害回復の努力をすべきであり,本件では,代替講師を確保し、正常な業務を回復してしかるべきであるという理由で,期間を限定しての損害金の認定をしたのです。
広島高裁平成16年4月16日判決は,塾の講師Aが,①B学習塾在職中に、新しい塾を開設する準備を行い、➁授業の合間などに、塾生に対し、「Aらが開設する塾の月謝をBのそれよりも安くする。」などと利益誘導的な言葉を用い、③Bを退職して新しい塾を開くことや新しい塾の場所を伝え,④塾生に対し個別にB塾を退塾する意思を確認し,新しい塾に入塾するよう勧誘したことは,学習塾における授業の際に、塾講師という立場を利用して行われたことになり,在職中の競業避止義務に違反し、Aの営業上の利益を侵害したものとして、債務不履行責任ないし不法行為責任を負うというべきであると判示しました。そして,損害として,Aが作成した退塾者名簿に記載された43名の塾生は、全員、Bを退塾したことが認定できるとして,同名簿記載の43名については、Aの在職中の勧誘行為により原告を退塾したというべきであるとして,Aによる勧誘行為がなければ、43名は当該年度中(平成21年7月から平成22年2月まで)は、Bへの通塾を継続したと認めるのが相当であるとして,この間の,月謝及び講習会受講料合計613万円から経費を引いた金344万円の損害賠償請求権を認めました。