使用者のための労働問題 性同一性障害者に対する態度
5 緊張が途切れることはないので面白い
労働審判申立事件は、
法24条で審判が終了させられる事件は3~4%、
調停成立率70%超、
残り20数%が審判になるが、
審判になった事件のうち異議の申し出がなされる(この場合は訴訟に移行する)のが20%程度(申立事件数の5~6%)、
したがって、80%(申立事件数の20数%)は審判が確定して解決している、
という現実の運用を考えますと、
使用者側の弁護士にとって、労働審判の申立をされたときは、労働審判委員会の提示する調停案を受け入れざるを得ない場合が多い(それが不服で調停の成立を拒否しても、労働審判がなされると、なんとなくそれに納得して異議を言わない可能性が大きくなる)という、現実を意識して、取り組むことが必要になります。
また、労働審判事件は、審理期間は3回までという縛りがある(15条2項)ため、短期決戦型の事件であること、実際の運用面でも、解決までの期間は、平均して75日間程度である現状の下では、第1回の審判期日が極めて重要な意味をもってき、受任をしたその瞬間から、準備にとりかからなければならないという緊張の伴う事件になっています。
⑴ 現場へ行く
労働審判の申立は、使用者からもできますが、事実上は労働者からがほとんどですので、使用者代理人である弁護士は、申立書を見て、争点が何かを把握すれば、そこを中心に、使用者の主張をまとめ、証拠の準備をしなければなりません。
その使用者の主張のまとめですが、事務所に来られる会社幹部のお偉方の言い分は、多分に、部下からの伝聞に基づく評価が多く、意外と事実関係を把握していないものですので、お偉方の主張を聞く前に、現場に飛んで、申立人である労働者の同僚などから、申立人の仕事の詳細な内容、仕事ぶりや時間の使い方などを質問していき、弁護士自身が、申立人になったつもりで、申立人の体験した事実を体験してみる、ということから始めなければなりません。
むろん、会社にある賃金台帳等、あらかじめその存在が予測できる帳簿類の確認はむろんしなければなりません。その上で、他の従業員から事情を訊いていくのですが、労働者の同僚から、申立人に書かれた争点を中心に事情を訊いていくと、一波が万波を呼ぶように、お偉方も知らなかった新しい事実(使用者に有利な事実)が芋づる式に出てくることがあります。
逆に、使用者に不利な事実しか出てこない場合もむろんありますが、後者の場合は、争いを避け、少しでも有利な調停になるような弁護活動へ梶を切っていくきっかけになりますので、いずれにせよ、労働事件は、依頼人の言い分のみを頼りに、主張や立証を組み立てるべきではありません。
時間と労力を厭わず、客観的事実を知る努力が必要になってきます。