コラム
使用者のための労働問題 16 労働審判は便利⑥
2013年1月24日
⑵ 争点を絞る
例えば、会社が従業員を解雇し、従業員から解雇無効を原因とする、従業員の地位にあることの確認を求める等の労働審判の申立や、訴訟の提起がなされたとします。会社代理人としては、解雇が有効であると考えるときは、それを裏付ける事実を答弁書に書きますが、このとき、何を解雇の理由とするか?が1つの問題です。
一例として、私が扱った訴訟の例を紹介します。
会社は、従業員Aを解雇した理由を、①協調性の無さと②能力不足を挙げたのですが、私の方では、Aの同僚B、C、D、EやAと一緒に仕事をした発注者会社の従業員F、Gから、Aの仕事ぶりを聴き出した結果、解雇の理由を、①能力不足1本に絞ったのです。
理由は、Aには、同僚や発注者側の会社従業員の求める仕事が、能力的にできていないこと、その能力不足は顕著で、Aには将来ともそれができるレベルに達することはない、と思ったからです。
会社の社長は、Aが他の従業員などと協調できないことも、解雇の理由だとして、解雇理由を能力不足1本にすることに抵抗があったのですが、私は、社長に、
ア たしかに、Aは他の従業員と協調して仕事をすることができていないが、それは、協調性の欠如が原因ではなく、能力がないため仕事が出来ないことが原因ではないか?
イ もし、Aに他の従業員同様の能力があれば、仕事に対する姿勢も、他の従業員との共同作業が必要な場合における連携も、今とは、大きく、違っているとは思わないか?
ウ 仕事の中味を理解できないAに、仕事の中味の理解ができていることを前提として、他の従業員との連携や連絡や、会社のいうところの協調性が期待できるのか?
と質問した後、
エ もし、解雇理由を、①能力不足と、②協調性の無さの2つすると、焦点がぼやける(そもそも協調性の無さという多分に性格的な欠点が解雇理由になるのか疑問である)上に、能力不足の立証は、実際にAのした仕事ぶりを明らかにするだけで、比較的容易にできる(仕事ができないことを具体的に立証できれば、従業員Aには、雇用契約における債務の本旨に従って履行はできないことが理解される)が、協調性の無さという性格的な欠陥(しかも、その欠陥が債務の本旨に従った履行ができないほどの欠陥)を立証することは至難の技だと思えるので、もし、会社が、Aに対する解雇理由を、能力不足と協調性の無さの2つとした場合、そのうち1つは立証できていないので、結局のところ解雇理由は立証できていない、という判断に傾きやすくなるのではないか?
と、私の疑念を言ってみたところ、社長も、なるほど、と理解してくれ、解雇理由を、Aの能力不足1本に絞ったのです。
この事件は、金銭による和解で解決しましたが、Aは、和解の席で、解雇は無効なので会社に復帰したいと執拗に言い続け、これに対し、裁判所は、Aに対し、断固とした姿勢で、それは無理だ、裁判所はAが職場復帰することを内容とする和解はできない、と言い、金銭による和解に至りましたので、私の争点を絞った争い方は、成功したのではないかと思っています。
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