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菊池捷男

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菊池捷男(きくちとしお)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

コラム

企業経営と危機管理 14 杜撰な保守作業が大事故に発展

危機管理

2012年12月8日

平成18年8月。S社製造のエレベーターが、その階に停止し、ドアが開いた。そこで、エレベーターに乗っていた1人の高校生がそこから出ようとして体の一部をかごの外に出した。そのとき、突如、エレベーターが開扉状態のまま上昇し、高校生はエレベーターと建物の天井の間に挟まれ、死亡した。このエレベーターは、それ以前からも不具合が続出していたので、当初、事故の原因はエレベーターの製造(設計を含む)の瑕疵だと思われたが、原因は、杜撰な保守作業にあったことが、後日の調査で明らかになった。すなわち、国土交通省は、調査結果、事故の原因は、エレベーターのブレーキ部分の磨耗によると報告したのである。ブレーキ部分の摩耗が原因なら、摩耗した部品の取り替えなどの保守作業ができていれば事故は起こらなかったことになるので、メーカーに責任があったとは言えないことは当然であり、刑事事件としての立件も、メーカー関係者ではなく、すべて保守作業をした業者X社の関係者であったのである。

では、保守作業のどこに問題があったのか?
ある論者は、
①エレベーターの保守の特殊性を挙げる。すなわち、エレベーターは、その頭脳とも言える制御盤の中味(ソフトウエア)、電気系統の設計図、整備マニュアル等の技術情報がメーカーに握られていること、したがって、メーカー以外の保守業者(独立系業者)には、これら技術情報が容易には手に入りがたいという特殊性である(メーカーといっても複数あり、これらの技術情報はメーカー毎に異なるので、メーカーによっては、自社で製造したエレベーターの保守管理しかしない会社もあるほどである)。
②エレベーターの保守作業は、①の技術情報を元にするので、エレベーターの所有者には、その内容を把握し難い上、エレベーターの耐用年数は、実に長く、30年以上も使用できること(今回の事故時の保守業者は1年契約であったので、極論すれば、1年間全く何の保守作業をしなくとも、事故さえ起こらなければ、保守作業をしなかったことが分からない可能性が大きかった)
③今回の保守作業を、独立系のX社にさせたこと(①②の問題が起きやすい)
④X社との保守契約の金額の安さ(以前結んでいたメーカーであるS社との契約は1年間360万円ほどであったが、独立系のX社との保守契約は120万円程度の金額で結んだこと)の上、その金額では、想定される当該エレベーターの保守費用は賄えないものであったこと(要は、手抜きをしない限り、本件保守作業は赤字になるものであったこと
を挙げる。
本件は、杜撰な保守作業がなされたことで、大事故につながったものである。
なお、国土交通省は、この事故の後、建築基準法を改正し、平成21年以降に設置するエレベーターには通常のブレーキのほか、扉が開いたままカゴが上昇・下降することを防ぐ補助ブレーキの設置を建物所有者に義務付けた。
なお、S社が製造したエレベーターについては、その後も、①平成19年5月にマンションのエレベーターのワイヤーの破断があった。②同年9月にエレベーターが上昇途中で降下し一時乗客が閉じ込められた。③同年10月に警察署のエレベーターが無人のまま最上階まで上昇し天井に衝突(その2日前の定期検査の際は異常ナシであったのに)、④平成22年11月エレベーターが開扉状態で降下し乗っていた1人が軽傷を負った、⑤平成24年10月(つまり先々月のことである)ホテルの従業員用エレベーターが開扉したまま突然上昇し始め、それに乗り込もうとした従業員が扉上部の枠とカゴ床の間に挟まれ死亡すつという事故があった(ただし、事故はいずれも平成18年の事故による建築基準法改正前のエレベーターに関するものであった)。

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