企業経営と危機管理 11 帳合取引は循環取引とは違う
これは鹿島コンビナートで発生したM社のエチレンプラント分解炉火災事故のことである。
M社では、分解路のメンテナンス作業をするに当たり、
工事の安全管理に関して
①保安担当者、工事担当者、元請会社の三者による工事安全打合会を開いて、「安全措置事項を決定」する。
②この安全措置事項に基づき、工事担当者、保全担当者、運転担当者が、それぞれ「工事安全指示書」「安全養生図」「作業確認リスト」を作成する。
③これらの「工事安全指示書」「安全養生図」「作業確認リスト」については、総括安全衛生管理者(労安衛法10条。実際はグループリーダーと呼ばれる職責の者)の承認を受ける。
④作業開始にあたっては、運転担当者が「作業確認リスト」に基づき、安全措置を実施する。
⑤この運転担当者がした安全措置の状況を、保安担当者が「安全養生図」に基づき確認する。
等の万全の安全対策がとられたが、火災事故が発生し、作業員4名が焼死し、M社は莫大な損害を蒙った。
火災の原因は、人的ミスの複合にある。原因の1は、①の段階で安全措置事項として決まった「AOVの施錠」(誤作動防止の措置)が、「工事安全指示書」には書かれていたものの「安全養生図」と「作業確認リスト」には書かれていなかったことがある。そして、作業では、AOVの施錠がなされず、その確認もなされなかったという原因につながっていった。原因の2は、グループリーダーは、「工事安全指示書」と「作業確認リスト」の両方を承認したが、子細にこれを見ておれば、「工事安全指示書」には書かれていることが「作業確認リスト」には書かれていないということに気が付くはずであるのに、見落とした。
この事件は、マニュアルが完璧でも、人為ミスは不可避的に発生するという例証の1つである。