相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q 「相続ノート」には、多くの箇所で「相続財産」という言葉が使われています。一方で、遺産分割とか遺産分割協議あるいは遺産分割方法の指定など「遺産」という言葉も使われています。「相続財産」と「遺産」はどう違うのですか?
A
1 被相続人が相続開始の時において有した財産
被相続人が亡くなった時に残していた財産は、「被相続人が相続開始の時において有した財産」(民法903条1項)という表現になります。
2 遺贈財産と相続財産
被相続人が相続開始の時において有した財産の中には「遺贈を受け」た財産(遺贈財産)が含まれています(民法903条1項)。
ここでいう遺贈財産には「相続させる旨の遺言により相続人に取得させた財産」も含まれます(最判平8.1.26)。
また死因贈与契約の対象になった財産も含まれます(民554)。
これら遺贈財産は、遺言で指定された相続人又は第三者の権利になっていますので、共同相続人の共有ではありません。
民法898条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」と規定していますが、ここでいう「相続財産」とは、共同相続人の共有財産であることから、被相続人が相続開始の時において有した財産から遺贈財産を除いた財産であることは明らかです。
3 遺産と相続財産
遺産とは、相続財産のうち遺産分割の対象になる財産を意味します。
相続財産は共同相続人の共有ではありますが、このうち金銭を目的とする債権は遺産分割の対象になりません(最判平29.4.8)。もっとも、全相続人の明示又は黙示の同意があれば、可分債権も遺産分割の対象財産にすることはできます。これらは「相続ノート」で解説しているところです。
遺産とは、相続財産のうち遺産分割の対象になる財産の意味で使われているのです。
4 一般的には、遺産=相続財産
前項で述べた言葉の使い分け、は通常いたしません。
一般的には、相続財産と遺産は同義語です。遺産である預貯金と言っても間違いではないのです。
預貯金は、相続財産であるが、遺産分割の対象にしない場合は遺産ではなく、遺産分割の対象にする場合は遺産になる、という言い方は、条文には忠実かもしれませんが、このような言葉の使い分けに特別の意味があるとは思えません。
ですから、遺産と相続財産は同じ意味の言葉と考えた方が良いでしょう。本コラムでも、そのような使い方をしています。