傾聴と夫婦のコミュニケーション
ースタート地点から新たな可能性への転換ー
ここで取り上げたいのは、思考・感情としての「現実を受け入れる」方法です。
過重労働やハラスメント、暴力などがある環境からは即離れましょう。
受け入れる、とは、甘んじる・我慢することではありません。
「ある」と認めることです。
1.現実を受け入れるのは「スタート地点」
こんなに苦しんでいるのに受け入れていないなんておかしくない?
と思われるかもしれません。
ですが、
「こんなことでいちいち泣いたり悲しんだり怒ったりするなんて、自分はなんて未熟なんだろう」
「他の人ならこんなことで悩まない。もっと強くなるべきなんだ」
のように考えて、ネガティブ感情を押しつぶしてしまっていませんか?
現実を受け入れるとは、まさにこの逆の行動です。
自分は今、悲しいんだ、苦しんだ、怒ってるんだ、寂しいんだ。
という、純粋な素の感情と向き合うことです。
向き合うことで、心のねじれが解消されます。感じているのに感じていないふりをするのは「ねじれ」です。それが無くなることで余計な心的エネルギーを使わなくて済むようになるので、余裕が生まれます。余裕が出来れば更に現実を受け入れやすくなっていきます。
そうして自分の素の感情と向きあったときが、解決へ向けてのスタート地点になるのです。
2.現実を受け入れる5つのステップ
①自分の気持ちを丁寧に拾って受け入れる
例えば朝会社に着いて上司に挨拶したのに無視された、とします。
ムカッとしたり、えっ?!って驚いたり、またかよ、と諦めたり、自分が悪いのかと怖くなったり人それぞれ瞬間的に感じる気持ちがありますよね。
だけど大抵の人は無理にでもそれを押し流します。そうしないと仕事にならないからです。
だけど朝一で受けたショックは残ったままです。
完全に消えてくれればいいですけれど、またその上司と向き合ったときに思い出したり、他の人と楽しそうに話していたらモヤモヤします。
そのモヤモヤを、上司にぶつけることは出来ません。
ただ、自分の中では無視しないようにしましょう。
『ちゃんと挨拶したのに無視された。悲しいな。それでも仕事はしないといけないし、頑張ろう』
恐らくこれがストレートな感情ではないでしょうか。
②受け入れることが出来た自分を労わる
「セルフコンパッション」をご存じでしょうか。
『セルフコンパッションは、自分に対して親切で温かい態度を持ち、自分の欠点や失敗に対して理解と受容の心をもつことです。これは、他人に感じる思いやりや理解と同じように、自分にも同じような対応をすることを指します』
自分の身にネガティブな事件が起きた(例えば上司に挨拶を無視された、とか)ことは、はっきり認識して受け入れることに結構エネルギーを費やします。
困難な作業をこなした自分のことを思いやる作業です。
例えば①の受容を、自分ではなく親友がやったとしたどうでしょう?
『すごい、えらいね、頑張ったね! 今日のランチではたくさん愚痴聞くから、とりあえず午前の仕事頑張ろうね』
とか言いませんか?
友だちに言ってもらえたらもちろん効果大ですが、自分でもやってみてください。ぎゅっと硬くなった体から無駄な力が抜けていくのを実感できるでしょう。
③「~ねばならない」を全部捨てる
「べき思考」とも呼びます。こうでなければならない、という条件を、大人になるほど人はたくさん持っています。
それは生きていく上で必要な倫理観だったり礼儀やマナーである場合もあるので、完全に無駄とは言えません。
しかし使いどころがとても大事だ、ということを、意外と知りません。いつでもどこでも通用するものだと思っています。
転んで擦りむいた膝を、ナイフで削ろうとすればさらに怪我が悪化します。清潔で柔らかい布をあてて血と痛みが引くのを待つのが正解ですよね。
現実を受け入れるときに邪魔になる「~ねばならない」は、一旦全部捨てましょう。役に立たないので。
④目標を作る
現実を受け入れることは問題解決へのスタート地点、とお話しました。
そこから先が大事、というか、先があるからこそ、自分の気持ちを自分で受け入れる、という、地味で人目につかないけれど困難な作業に取り組もう、という意欲がわいてくるのです。
スタート地点に立って、さあここから何を始めていきましょうか。
家族が病気で仕事を辞めなくてはならなくなった、という現実と、それに付随する自分の感情を受け入れられたら。
この先どうなるんだろう、という不安が一番強いなら、不安を減らしてくれる情報や道具、サポートを探すようになるでしょう。
不安と言っても色々ですよね。お金の不安、社会復帰への不安、家族として続けていけるのか、という不安、健康上の不安。
それぞれ解決に必要な要素や相談先は異なりますので、具体的に調べていくことになるでしょう。
めんどくさいし大変そう……。
と思われたかもしれませんが、こうした行動を起こすことで、気持ちは後からついてきます。
自分の(ネガティブな)素の感情を受け入れる→次にやるべきことが分かる→行動する→素の感情が軽減する
という流れが出来上がっていきます。
⑤周囲からのサポートを受け入れる
自分の感情を受け入れられていないと、周囲からの助けを拒否することになりかねません。
体調が悪かったり忙しいときに、「大丈夫?」と声をかけられたとき、反射的に「大丈夫!」と言っていませんか?
でも多分大丈夫じゃないですよね。大丈夫じゃないけど、他にどう返事をしていいか分からないから「大丈夫」と言ってしまっているのではないでしょうか。
それは、自分が本当はどう思っているか、を受け入れていないからです。
本当は疲れている、少しでも休憩したい、と分かっていれば、「大丈夫?」と言ってくれた人に具体的な相談が出来るかもしれません。
自分が求めたものと違うサポートだったとしても、「辛い時に助けてくれる人がいる」と経験出来ることは大きな助けになります。
そして「助けられてばかりで情けない」と思う必要もありません。返報性の法則が働いて、どこかで必ずお返し出来ます。
3.大事なのは「前向きな諦め」
自分の素の感情を受け入れるのは、一種の諦めです。
諦めという言葉もあまり良いイメージはないかもしれません。
ですが、現実的に可能な選択肢をとるためには、前向きに諦めることはとても重要です。
前向きに諦めて素の感情を受け入れることで、
- 新しい方向へ転換出来る
- 未知の自分の可能性やストレングスに気づける
- サポートが得られることで孤独感が減る
というメリットがあります。
八方塞がりと思ったときこそ、前向きに諦めて自分の素の感情を受け入れ、スタート地点を確認しましょう。