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普通と偏見

2023年7月30日

テーマ:ケアする人のメンタルケア

コラムカテゴリ:メンタル・カウンセリング

普通と偏見
普通、という言葉は、外国語はどうか知りませんが、日本語にはいろんな意味や意図が含まれているように思います。
言っている側の意図もあるし、受け取る側の状態によっても意味が変わってくる。
そして自分が「普通」にこだわることで「内なる偏見」を育ててしまうこともあります。

優しい「普通」と傷つける「普通」、普通が生み出す「偏見」について考えてみました。

1.普通とは

つまり、大多数、一般的、ということですよね。多数派、ということです。
しかしそれは何か統計を取った上で、いわゆる「エビデンス」があるわけではない。
言っている人の周辺で起きている事象に対し、違和感なく受け入れられる、自分も同じだ、と感じたものを「普通」と言う言葉で表現しているのだと思います。

つまり、「普通は~だよね」と言っている人の小さな文化圏の中のお話、と言えます。

2.「普通」に傷つく、苦しめられるとき

同じ感覚でいられるときに、わざわざ「普通は~だよね」なんて言い方はしません。
大抵は、相手の言い分が自分自身や自分を含めた大多数と違うものだと感じ、受け容れられないときに「それはあなたがおかしい」と主張したいときに「普通は~だよね」と言ったりします。

なぜ「普通」という言葉を使うのか。
それは、「私は」と言うことによる責任を回避するためです。
相手には相手の言い分や立場があることが分かっていて、場合によっては反論されるかもしれない。
その時に「私が思っているんじゃなくて、他の人たちが…」と弁解して反論を躱すためです。

3.「普通」が嬉しいとき

逆に「それって普通だよね」と言われて心が楽になることもあります。

実体験をお話します。
私は夫がうつ病になった当初、そのことを中々周囲に話すことが出来ませんでした。
親には言わざるを得ないので話しましたが、病気になる前の夫を知っているその時の職場の同僚には言えませんでした。
しかし夫も同じ会社に勤めていたので、休職すれば遅かれ早かれ知られることになります。
それが怖くて私は退職しました。

その後いくつか仕事を転々としましたが、そこでは特に夫のうつ病について話す必要はありませんでした。派遣社員や契約社員での雇用だったので、言わなくてもいいかな、と。

ですがその後、必要に迫られて正社員になるために転職をした際に、面接のときに先方へ話しました。
多分結構緊張して、勇気が必要だったと思います。
ですが聞いてくださった社長は、
「ああ、多いですよね、最近(今から20年近く前)。大変ですね」
と言ってくれました。私が恐れていたような反応(驚き、拒否、物珍しさ)は一切ありませんでした。
その後入社してお世話になった先輩にも話したところ、同じような対応をしてくれました。

その時からですね。「人に言ってはいけない」という無意識の防御が外れました。
無論誰彼構わず言ったりしません。相手を見るし、必要に応じて、お互いの関係性によって、ですが。

ただ、「珍しいことじゃない、普通なんだ、他にもいるんだ」実感できたことで本当に気持ちが楽になりました。

「普通」が人を解放することがあるのです。

4.家族の精神障害を他人に言うべきなのか

難しい問題です。
うつ病などメンタルヘルスに関する病気を患う人が増えているとはいえ、誰でもなっているわけではなく、どこにでもいるわけでもない。
当然「言うべきか否か」で迷っている人には不安があります。

  • イヤな反応をされないか
  • 差別されるのでは
  • 興味本位な目で見られたらどうしよう
  • 広められたら
  • 今までの関係性が変化してしまったら

など、尽きることはありません。私もそうでしたし、そのために転職もしました。
夫のうつ病という未知の事態だけで天手古舞だったので、余計なストレスを抱えたくない、というのもあったかもしれません。

私のように、言わないことでのデメリット(職を変える)が大きくなるようなら、「誰に、どのタイミングで、どんなふうに、何を目的として伝えるか」を吟味したうえで、言うことを検討してもいいかもしれません。

ただ、「言ってはいけない・知られてはいけない」と強く思い過ぎると、今度は自分の中で家族の精神障害への偏見を育てることになってしまいます。「セルフスティグマ」です。

吟味したうえで誰かに話すことで、受け容れてもらえる、普通に受け流してもらえることでスティグマ化は回避できます。

5.「選択肢」を増やす

「家族が精神障害であることを言うか・言わないか」の二択でぐるぐるしてしまうから、行き詰った末に自分の中でスティグマ化してしまうのかもしれません。

行き詰るのは、選択肢が二つ、もっと言えば一つしかないからです。
選択肢を増やす、というのはどうでしょうか。

例えば「言う」「言わない」の二択の間に「様子見」を入れてみましょう。
「普通はうつ病になんてならない」と思っている人に、急性期のどん底ど真ん中のうつ病の状態を話したところで理解なんかされるはずがありません。
うつ病は通院し、薬を飲んで、休養を続けることで症状は軽減していきます。緩やかでも時間がかかっても、少しずつ変化していきます。
その間に一緒にいる家族も「うつ病」(その他精神疾患)に対する見方が変わります。知識も増え、将来への展望も見えてきます。
そうすると気持ちが落ち着いてきて、最初のような動揺はおさまっていきます。

そうなってからもう一度、例えば「職場の人に言うか、言わないか。言うとしたらどんな風に、何のために言うのか」を考えればいいと思います。

6.必要なのは「自分にとっての普通」

この場合の普通とは、「大多数、一般的」という意味ではなく、「自分が安定していられる状態」のことだと思います。

病気にはならないほうがいい、なっても早く治ればいい。でも完全にそれ以前に戻るわけではない。
だとしたら、その状態を含めて「自分(達家族)が安定できる状態はなにか」を考えて、それを「普通」と思えると、気持ちが楽になります。

もしよく知らない人に「普通は~だよね」と、こちらの「普通」を批判されても、「でも私たちは~が普通だから」と反論できます。

何が普通か、など、人それぞれなのではないでしょうか。

この記事を書いたプロ

西岡惠美子

精神障害者とケアする人を支えるライフカウンセラー

西岡惠美子(惠然庵(けいぜんあん))

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