M&A 1 M&Aの巧拙は企業の成長力に差を付ける
4 M&Aに対し買収防衛策を講ずる必要がある場合(いわゆるハゲタカファンド?に狙われたとき)
M&Aが、常にシナジー効果を生み、買収した会社、買収された会社の株主とも、ウインウインの関係になるというものではない。
M&Aの中には、警戒を要するM&Aもあってすぐさま買収防衛策を講ずる必要が生ずる場合もある。
(1)目的において、許される買収防衛策
では、どのような目的の下でなら、買収防衛策を講ずることができるか?これについては、裁判所が明確な基準を設けている。
すなわち、2007年6月某投資ファンドがブルドックソースに対しTOBの開始を通告した件においてである。
これに対し、ブルドックソースは投資ファンドに対し質問状を出し、その回答を得たが、それによると、投資ファンドは
a)日本において会社を経営したことはなく、現在その予定もないこと、
b)ブルドックソースを買収しても、それを投資ファンドが自ら経営するつもりはないこと等が分かった。
そこで、ブルドックソースはこの買収を「濫用的買収」であり法的に許されない買収だとして、その買収防衛策を講じた。
これに対し投資ファンドは、東京地裁に対し、この防衛策は株主平等の原則に反し無効だとして、差止めの仮処分を申し立てた。しかし、一審、二審、三審(最高裁平成19年8月7日決定)とも、投資ファンドの申立てを認めず、ブルドックソースの講じた買収防衛策は法律上有効と認めたのである。
裁判所の判示部分の要旨は、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても株主平等原則に違反したい。」というものであった。
最高裁のこの判示部分は抽象論にとどまっているが、その後、東京高裁平成17年3月23日決定は、この最高裁決定を敷衍する形で、次の場合は買収防衛策を講ずるが許されると、より具体的な基準を設けた。
すなわち、買収防衛策が有効だとされるのは、例えば、
①買収者が、会社経営に参加する意思がなく、単に株価をつり上げて会社関係者に高値で買取らせる目的がある場合。
なお、このような目的をもって買収をする者を「グリーンメイラー」(ドル札の緑色と脅迫状を意味するブラックメールを合わせた造語)という。
②会社の知的財産、ノウハウ、企業秘密、主要取引先の奪取を目的とする場合
③買収者が経営支配権を取得後、当該会社の財産を自己の債務弁済の担保・支払原資として使用する目的を有する場合
④買収者が経営支配をした後、当該会社の優良資産を売却して、その収益でもって高配当を受けるとか、株価を一時的につり上げて売り逃げる目的を有する場合
などである。
俗にいうハゲタカファンドとは、このような買収者なのであろうか。
(2)方法において許される買収防衛策
前記最高裁決定が、買収防衛策を有効だと判示したときの買収防衛策は、新株予約権割当方式(ポイズンピル=毒薬条項)といわれるものである。
この方法は、
①買収者が現れたとき会社は、買収者以外の株主全員に新株予約権を付与する。買収者が持つ株式には新株予約権は与えないで現金を与える。
②新株予約権を得た株主は、新株予約権を行使して市場価格よりかなり安く新株を取得でき、その方法で新株を取得すれば、買収者が株式市場でいくら発行済みの株式を購入しても、議決権が希釈化される(薄められる)結果、会社の支配ができなくなるのである。
この方法がポイズンピル(毒薬)条項といわれるのは、買収者が発行済みの株式をいくら買い集めても、目的が達成できないからである。
毒の入った株式を買っても無駄だという暗喩の言葉なのである。