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28 社外取締役の真贋が問われる事件の発生

2023年4月24日 公開 / 2023年4月26日更新

テーマ:コーポレートガバナンス改革

コラムカテゴリ:法律関連

28 社外取締役の真贋が問われる事件の発生

(1)株式公開買い付けに対応した社外取締役らの姿勢が問われた事件
 2023年4月23日付け日本経済新聞の記事「安すぎたファミマTOB 裁判所 特別委が役割果たさず」によれば、
2020年に伊藤忠商事がファミリーマートに対して行ったTOB(株式公開買い付け)に関する、ファミリーマートからの回答を不服とした少数株主からの裁判所に対する「価格の決定の申立て」に対し、2023年3月に、東京地裁がTOB価格2300円を公正な価格とは認めず、公正な価格はそれより300円高い2600円であったと決定したことを報じた。

 通常、株式公開買付けは、買い手(この件では伊藤忠商事)からの当該株式の発行会社(本件ではファミリーマート)に対する通知に始まり、株式発行会社は、取締役会を開いて、この通知に対してを回答を出すが、その回答をする前の段階で、社内で特別委員会を設け、その委員会に回答の内容をいかにするかを諮問するのが、重要な流れになっている。



 この件では、ファミリーマート内の特別委員会が公正な価格だとして出した2300円という数字が、裁判所には公正でない価格と見られ、公正な価格は2600円であると、断じられたものであろう。
新聞の見出しに書かれた「特別委が役割果たさず」という文字がそれを物語っている。

(2) 特別委員会の役割
 特別委員会の役割は、「公開買付けにおいて一般に公正と認められる手続を履践して」公正と考える価格を算出することであるが、その中で以下の4項目を判断要素にすべきこととされている。
 ① TOBの合理性
  → 本件では、TOBが成立したときは、ファミリーマートの企業価値が向上するかどうか。
 否定例:かつてアメリカで一時見られた破壊的敵対的買収目的(買収した会社の財産を処分して利益を得るハゲタカファンド)ならTOBは拒否すべきことになる。
② 取引条件の妥当性(取引の実施方法や対価の種類の妥当性を含む。)
→ 買収対価の柔軟性が認められているので、キャッシュ以外の財産での支払が予定されている場合は、その検討
③ 取引の公正性、(いかなる公正性担保措置をどの程度講じるべきかという検討を含む。)
→ 特別委員会の公正性判断過程が問われる。
➃ 少数株主に不利益でないこと。
→ どうやって少数株主の意向を確認するかは一つの難問

この特別委員会の判断をまって、取締役会はそれをもって、買い手に対する回答にする流れになるはずである。

(3) 特別委員会の委員の属性
通常は、社外役員(社外取締役・社外監査役)が特別委員会の委員になるようなので、本件でも、社外役員全員が委員になったものではないかと想像する。

(4) 特別委員会の委員には、諮問に答えて回答をする能力はあるのか?
 彼らだけでは、その能力はない可能性が高いが、大手法律事務所の弁護士(複数)やコンサル会社から派遣されてきた公認会計士(複数)の助けを借りて回答するのが一般的なので、その条件付きならば回答能力はあると言えるであろう。

(5) 伊藤忠商事がファミリーマートに対して行ったTOB(株式公開買い付け)に関し、前記新聞記事に「特別委役割果たさず」と書かれることになった原因は、何か?
 特別委員会での審議・協議には、公認会計士など専門家も事実上参加するので、「一般に公正と認められる手続を履践」していると思われるが、「一般に公正と認められる手続」というのは実に多種多様であり、誰がしても同じ金額になるというものではない。この件は、一般に公正と認められる手続は履践していたものの、計算要素の中に裁判所が納得できないものを入れたか省いたかした可能性がある。それを前提に考えると、ファミリーマートの純資産が適切に評価されなかった可能性に思いつく。
人は、株式を買う場合も売る場合も、その日の取引価格の終値との比較で、高いか安いかを判断する傾向にある。この件も、そういう物差しで適正価格が出され、それにプレミアムが加算された計算の結果、2300円になった可能性がある。
 もし、そういう計算、というよりそういう感覚で、TOB価格を出したのなら、ファミリーマートの価値を公正に算出したとは言い得まい。
同社の純資産の価値が無視されたことになるからである。
 もし、ファミリーマートの純資産額が、株価より高い価額、すなわち同社の株価が株価純資産倍率(PBR)1未満の会社であったとし、また、同社を伊藤忠商事が完全子会社化した後、ファミリーマートの業容も業績も大きく飛躍する可能性が大きいとすれば、それによって受ける伊藤忠商事の将来の利益の全部とは言わないまでも一部を、現在の株価の計算要素に入れる必要があると思われるが、調査委員会ではこれをしなかったとすれば、裁判所はそれを問題にするであろう。裁判所は、そのことを考慮して、2300円ではなく2600円という金額を公正な価格としたのかもしれない。

以上の可能性を探っただけの私の推論は、むろん空想上の産物である。しかし、可能性は絶無とは言えまい。
いずれにせよ、前記新聞記事には、「特別委役割果たさず」と書かれるくらいなので、特別委員会に何らかの責められる点があったのであろう。(2)の➀から④まで、特に③と④を、どのような精査したのか、その内容が問われた可能性があるであろう。

(6)社外取締役の選任基準いかん
 社外取締役には、このようなTOB価格算出のための特別委員会委員としての仕事がある。
このことも考えた選任基準は必要だろう。
社外取締役は、事あるごとにその真贋が問われることになるからである。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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