M&A 1 M&Aの巧拙は企業の成長力に差を付ける
29.TOBに臨む社外取締役に期待される才幹
(1)日経新聞記事より得た情報
本日2023年4月26日日経新聞記事「イオン、いなげやを子会社に」は、前回のコラム「28.社外取締役の真贋が問われる・・・」の続編を書くのに最適なデータを与えてくれた。
この新聞記事によると、イオンは、食品スーパー大手いなげやを連結子会社化するため、さらには将来イオン傘下のスーパー子会社と統合するため、いなげやの株式取得をすることにし、その方法の一つにTOB(株式公開買い付け)を検討していることを報じ、かつ、次のデータを与えてくれたからである。
①食品スーパーは人件費や光熱費がかさみ、デジタル投資も重荷となっていること、
②イオン連合で投資や調達を効率化し、生き残りを図るため、上記TOBなどの施策を採ることが必要になったこと、
③イオンはいなげやの株式を取得し、いなげやを連結子会社となし、将来傘下のスーパー子会社と統合させると、両社の売上高は約9600億円となり、食品スーパーで国内首位となること。それにより、イオンの社長の言によれば、イオンは「食品スーパーで売上高1兆円」を目指せること、
④いなげやの時価総額は684億円、23年3月期の連結業績見通しは、売上高にあたる営業収益が2520億円と前の期比横ばい、純利益は29%減の17億円にとどまりそうなこと、物価高による運営費用の負担増で、安定した利益が稼げない状態が続いていること、
⑤イオンがいなげやの株式を取得できれば、商品の調達力をさらに上げ得、ここ数年抑制してきたいなげやの新規出店も可能となること、
⑥イオンは今夏、英ネットスーパー大手と組んで、新しいネットスーパー事業を東京都内などで始める計画をしているので、いなげやはイオンのデジタル基盤の利用が可能になり、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくこともできることなどのデータである。
これらデータのうちの③と⑤と⑥は、いわゆるシナジー効果(相乗効果)の内容をなすものである。
(2)TOB特別委員会の委員になった社外取締役に求められる才幹
TOB(株式公開買い付け)特別委員になると、
(1)に書いたデータに加え、次のデータを得ておく必要があるだろう。
a 日々の市場で形成される、いなげやの株価水準
b 株価に影響を与える財務指標、特にPBR(株価純資産倍率)
これらの指標を重視するのは、前記シナジー効果によってTOBの対象になった会社の業績が向上する可能性があるからである。
とくにPBR1倍未満の会社は、株価が解散価値より下に沈んでいることになるので、シナジー効果を得るや、淵に沈む龍が天の時を掴んで飛翔するに似た、好業績を挙げる可能性があるからである。
(なお、日経新聞の上記記事が出たその日、東証のプライム市場に上場している、いなげやの株価が、22.95%上昇した模様である。
以上に述べた経営統合によるシナジー効果への投資家の期待がこの数字になったものであろう。)。
それによる受益の一部は、当然、現在の株主にも還元すべきことになるだろう。
また、特別委員会の委員になった社外取締役は、買い手側の申入れ価格に不満を持つ少数株主の意向調査も絶対にしなければならない。買い手側の言い分のみを聴き、その鼻息を窺いながら若干のプレミアム加算をさせるだけで能事足れりとするのではなく、データを駆使し、財務諸表だけでなく、株価の過去から現在に至る推移と値上がり・値下がりの原因分析、株が買い手に買われた後の会社の業績予想つまりはシナジー効果をどの程度株価に反映させるかなどについてまで、少数株主に説明する必要はあるであろう。ただし、納得してもらうことまでの必要はないが。
そのあたりの配慮がどの程度なされるかが、特別調査委員会の委員、特に社外取締役の才幹(鼎の軽重)が問われるところであろう。
特別委員会の報告書には、価格に不満を持つ少数株主を納得させる、データを駆使した文章を書く必要も、当然あるだろう。
裁判所に「価格決定の申立て」がなされないほどの丁寧さで。