コラム
M&Aの成功と失敗を分ける分水嶺は企業法務にあり
2023年2月10日
M&Aの成功例
日本経済新聞の2019/6/11付け「M&A無敗 日本電産の掟 過去63件大型損失なし」という見出しの記事には、日本電産のするM&A(買収・合併)が大成功を収めてきた事実が報じられていた。
その成功の元は、M&Aの対価を、企業価値の尺度となるEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の7倍以下にする指針にあったようだ。
となると、日本電産のM&Aの成功の裏には、M&Aの対象企業に対する、的確な法務・財務・税務それぞれのデューディリジェンス(DD)があったものと思われる。
むろん、これら的確な法務・財務・税務それぞれのDDができたのも、専門家集団による市場調査に加えて、M&A対象企業の研究や調査が十分になされていたことがあったからと思われる。
M&Aの失敗例
一方、東芝が2006年に米国の原子力発電プラントメーカーであったウェスティングハウス社に対してしたM&Aは失敗、しかも大失敗といっていい例であると思う。
その原因は、ウェスティングハウス社が、長年にわたって原子力発電プラントメーカーとしての実力を失っていた(実績もなくなり、技術者も大量に流出していた)ことに、東芝は気がつかなかったことにあったようだ。
となると、東芝は、原子力発電プラントメーカーに対する市場調査もウェスティングハウス社そのものに対する企業調査も十分にはしていなかったこと、したがって、法務・財務・税務それぞれのデューディリジェンス(DD)も十分にはできていなかったことが窺われる。
なお、東芝は、このM&Aの失敗により、財務内容を大いに痛め、それを糊塗するため粉飾決算に及び、それが発覚するや倒産の危機にまで陥り、外国籍のファンドを頼って資本の増強を図ったが、それによる紛糾も生じ、拡大し、今日に至っている。
成功と失敗の分水嶺
これらのM&Aの成功例と失敗例を分けたもの(分水嶺)は、何であっただろうか?
M&Aで無敗を誇る日本電産の勝因が、M&Aの対価をEBITDAの7倍以下にすることができたこと、その原因として、法務・財務・税務それぞれのDDが正確かつ堅牢であったこと等々にあったことに、異論はあるまい。
一方で、東芝のM&A失敗の原因は、日本で初めて機関設計に委員会設置会社(その後、監査等委員会設置会社が我が国に導入されたことを機に、指名委員会等設置会社という機関設計名に変わった)制度を導入し、コーポレートガバナンスの優等生とまで言われ、将来を大いに嘱望されながら、M&Aの対象としたウェスティングハウス社も当時の原子力発電プラント市場調査も十分にはできていなかった上に、粉飾決算までする企業体質にあったと著者がそう断じたとしても、大きな間違いだとは言えないであろう。
そう考えると、日本電産のM&Aの成功と、東芝のそれの失敗を分けたものは、自ずと明確と言うべきではないか。著者は、その成功と失敗の分水嶺を、企業法務力の有無と言いたい。
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