コラム
第2章の1 危機管理 リスク管理システムとリスク・マネジメント
2022年10月22日 公開 / 2022年11月4日更新
第2章 危機管理
企業法務が最初にすべき仕事は、危機管理である。
第1節リスク管理システムとリスク・マネジメント
1.リスク管理システムの構築者
リスク管理システム(いわゆる内部統制システム)という言葉は、2000年(平成12年)9月20日大阪地方裁判所で言い渡された大和銀行事件判決の中で生まれたとされている。
この判決は、その法的根拠と意味内容と整備義務者につき、次のように判示している。
「 取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと(して)...健全な会社経営を行うためには、...事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスクの状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわち...リスク管理システム(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。...
リスク管理システムの大綱については、取締役会で決定し、...代表取締役及び業務担当取締役は、...リスク管理システムを具体的に決定するべき職務を負う。
取締役は、...代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理システムを整備すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負う...。
監査役は、...小会社を除き、業務監査の職責を担っているから、取締役がリスク管理体制の整備を行っているか否かを監査すべき職務を負う...。」
と判示して、これに違反して大和銀行に損害を絶えた旧経営陣11名に対して、総額で7億7500万ドル(当時邦貨にして約830億円の支払いを命じた。
2.形式知と暗黙知の融合
なお、この判決は、リスク管理システムの大綱については、取締役会で決定し、代表取締役及び業務担当取締役は、リスク管理システムを具体的に決定するべき職務を負うと判示した。
前者の取締役会で決定するリスク管理システムの大綱は、企業の成長と共に膨大になっていく規則・規程集の中に、形式知として積み上げられていくものと考えられる。
後者の代表取締役及び業務担当取締役がなすべきリスク管理システムを具体的に決定する職務は、「リスク・マネジメント」と言うべき方法論であるから、その全てを規則・規定化することはできず、企業成長の歴史と伝統の中に暗黙知としての地位を確立するものと思われる。
リスク管理システムの大綱をなす規則・規程集に書かれた形式知と、それを具体化していくリスク・マネジメントである暗黙知が、両両相俟って、リスク管理体制の整備になるのだというのが、前記大和銀行の判決の言わんとするところであろう。
それはあたかも、古人の言う「天網恢恢疎にして漏らさず」を具現するもののように思える。
すなわち、リスク管理システムの大綱は規則・規程にしていくので、字句は極めて抽象的、したがって、その網の目は粗いものになるが、天の網のようにすべてを包んでおり、それを具体的に決定するリスク・マネジメントと一体化し融合することで、どんなリスクも漏らさないリスク管理体制にもっていけるということになるからである。
3.充実化
なお、こうして出来上がるリスク管理システムも、経験と研究により更新すべきものにしなければ、意味はない。
すなわち、前記大阪地裁判決も、続けて、
「 整備すべきリスク管理体制の内容は、リスクが現実化して惹起する様々な事件事故の経験の蓄積とリスク管理に関する研究の進展により、充実していくものである。 」
と判示しているのである。
要は、リスク管理システムは、一種のPDCAサイクル、すなわち、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の検証型プロセスを循環させ、深化させ充実させ続けることが必要とされるシステムなのである。
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