第2章の2 クライシス・マネージメント
アメリカでは、企業の法務部は、立法への働きかけも、その職務の一部のようだ。
日本経済新聞2020/12/29付け記事「日本企業、また敗れるのか 眠れる法務を放置するな」によれば、
アメリカのエアービーアンドビー(2008年8月に設立した米国の新興企業)という会社が、同社の法務部を働かせて、2017年(平成29年)6月に日本で、住宅宿泊事業法(いわゆる「民泊新法」)を制定させ、それまで日本では公認されていなかった、宿泊を希望する顧客と民泊用建物を提供する建物所有者間を、アプリを使って結びつける民泊事業を可能にしたとのこと。
この新聞記事は、見出しに「日本企業、また敗れるのか 眠れる法務を放置するな」という言葉を使っているので、新聞も世間も企業も、企業法務の範囲として、企業の事業展開に必要な立法化への働きかけも要求しているのかもしれない。
幸い、我が国には、「新事業特例制度」がある。
これは、グレーゾンーン解消制度のところで紹介した産業競争力強化法の中にある制度だ。
これの制度は、新しい事業を始めようとする企業が、その新しい事業のための法律がないため、既存の法律で規制されるのは困ると考えた場合に、「企業単位」で特例を認めるという制度である。
【 事例 】 電動キックボード
現在、電動キックボードを直接規制する法律はない。
あるのは、道路交通法であるが、電動キックボードを道路交通法に従い位置づければそれは「原動機付自転車」になるので、ヘルメットの着用が義務とされ、自動車道しか走行できない。つまりは自転車道の走行は認められないなどの規制を受ける。
そこで、事業者(複数)から、政府に対し、電動キックボードに乗ってもヘルメットの着用は任意のものとし、自転車道を通行できるように「新事業特例制度」を設けてほしいとの要望を出して受理された。
その結果、2021年4月以降は、産業競争力強化法による特例として、電動キックボードは、「小型特殊自動車」として、車道も自転車道も通れるなどの特例を受けた上に、2022年4月には道路交通法が改正され、2024年4月までに到来する施行日以後は、電動キックボードの利用がより便利になった。
これなど、“新しいブドウ酒は、新しい革袋に入れる”という発想の下での「新事業特例制度」のおかげと言うべきものであるから、この制度は、新たな事業を興すチャンスが、業界全体に生まれたものと言い得よう。