民法雑学 心が傷つけられたとき
二つの義務の違い
Q 民法上、二種類の「義務」があると聞いたことがあります。
その違いを教えてください。
1.義務の内容
A 二種類の「義務」とは、
①「契約上の約束を履行する義務」と、
②「不法行為上の注意義務」のことです。
①の「契約上の履行義務」に違反することは、「債務不履行」と言われ、
②の「注意義務」に違反すると「過失」が認定され、損害賠償責任が生じます。
①について言えば、例えば、お金を借りるという契約(金銭消費貸借契約)を結ぶと、返済義務が生じますが、この義務(債務者の義務=債務)を履行しない場合は、「債務不履行」になるのです。
②について言えば、例えば、赤信号を無視して交差点に侵入したため、交通事故を起こし、他人(被害者)を怪我させた場合、一般的には、赤信号では停車するという注意義務に違反しているので「過失」責任が生じます。
3.二つの義務の違い
契約上の義務(債務)は、契約書に書かれた義務ですので、直接的です。
一方、不法行為になる注意義務は、それが有るか無いかは評価の問題になります。
過失になる評価をするには、事故という結果の発生を予見できた場合に「結果発生の予見義務」が生じ、その時点で事故という結果を回避できた場合に「結果回避義務」が生じ、この両義務が生じたときは「過失」があったと評価されることになります。
すなわち、結果発生の予見可能性ある → 予見義務が生じる
結果回避可能性がある → 結果回避義務が生ずる
以上が、過失論の骨格になる考えです。
②の例では、経験上、赤信号を無視して交差点に入ると交通事故を起こすことは予見が可能です。ですから、交差点に入る前の時点で「予見義務」が生じます。
次に、予見義務が生じた時に車を停止させると、事故という結果の回避が可能ですので、その時「結果回避義務」が生じます。
赤信号無視は、この二つの義務に違反すること明らかですので、「過失」が認定されることになります。
4.事実と評価の違いあり
契約上の履行義務違反(債務不履行)は、債務を履行しないという事実状態を言い、「不法行為上の注意義務違反」は、前述の論理的な思考のうえでの評価になります。
事実と評価の違いがあるのです。
5.名著紹介
なお、「過失の構造」について書いた名著がありますので、次回のコラムで紹介いたします。